組織活動の定期診断が必要【特別対談】翻訳業界と品質管理⑤
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品質管理と組織
川村 先生にご指導いただいて、六年くらいですかね、一月に一度ご指導いただいていた時期があって、それから後は改善事例発表会を一年に一度開催しています。発表会の折には、今でも先生に講義をしていただいています。
月に一回の指導会が一応一旦終わりになったという時に、社内に横断品質管理という組織ができました。ただ、組織はどんどん変わっていきますし、新しい人が入ってきて、何人かは出て行ってしまう。社内全体の品質を横断的に管理していこうとしているわけですが、段々と品質管理の考え方が、そしてすごく大事なことですが、品質管理の精神が薄れてくる。
そしてあるときにクレームが増えてくるんですね。だから組織は必ず変化していきますからそのときに、知識を受け渡して、精神を根付かせるということがとても難しいと最近つくづく感じます。それについてはどのように思われますか。
吉澤 そこは、多くの企業が一番困っているところと思います。昨年のニュースでも話題となりました。経営トップのレベルでの品質軽視が散見されるようになってきました。手を抜くと、いつでもシーシュポスの神話に逆戻りになる可能性は多いと思います。
「モノ」の場合は、使っている間に、結局時間が経つと、磨耗したり劣化したりして、やっぱり品質は悪くなってくるわけですよ。自動車でも時折、定期点検をやったり、あるいは法定定期点検があって修理や修繕したりします。
一方で、組織の場合も人が関連するシステムであると考えます。システムの内部は、機械や情報の組合わせか、人かの違いはありますが、同様に考えられます。先ほどおっしゃられたように、経験した人がいなくなってしまうと、より多くの人が介在してコミュニケーションが変化するなど、Doの部分で変化が生じます。
また、新しい案件を成し遂げようとすると、その企画の条件も変化します。品質管理の基準が変われば、やり方も維持だけでなく、それに対応していくことが必要となります。顧客や、作業する人が異なれば、その異なった状況に対応して、仕事のやり方、中身を変えていかなければなりません。このような変化に対して対応していくことも、品質管理をする上での組織運用として重要なことです。
そこには、目に見えない組織があります。お互いにつながって目的を達成するのが組織です。そして組織は、構造をもっています。機能する組織構造を管理していく、あるいは場合により変更を加えるということが、組織の管理となると考えます。
自動車なんかの「モノ」の場合は、時間的に一方的に劣化や摩耗をするだけなんです。要するに、「モノ」は学習しないですから、自分で学習し、新しい自動車になるなんてできないわけです。
ところが、人が介在する組織は、柔らかい構造であるがゆえに、よくなったり悪くなったりしてしまう。つまり、組織の中の人が学習することにより、より生産的な組織にもなるし、逆に非生産的な組織にもなる。もし悪くなっていくようだとすると、機械のようなシステムを採用している場合が多いのです。
学習がない組織から学習がある組織構造あるいは組織マネジメントに変えていく必要があります。そこが組織の質の管理になります。
やはり、そこの中の人々の、つながりとか、意識のつながりとか、やり方のつながりとか、そして作ったものやサービスの質を管理、改善をするという基本的ことを学習する機能を組織構造の中に組み込んでいく必要があると考えています。
経営としてはそれらの方向に向けて刺激を与え続けないと、人は死にませんが、組織として死んでいくと考えています。緩んでいくんですよね。
川村 そうですよね。
吉澤 ですから、そこのところをどうやってケア(看護)していくのかは、結構難しい問題になっていくんじゃないでしょうか。
川村 そうですね。例えば、弊社の場合でいうと、管理するためにさまざまなデータを取らなければいけません。そのデータを取るという行為自体は、一人ひとりの社員にとっては余分と思ってしまう仕事です。だからできたら取りたくない。しかし放っておくと人間は絶対安易な方向に流れていきます。何かが少し緩むと、それが噴出する。
吉澤 出ますね。だから管理ができないのは、そういう組織が緩んでいく状態で生じます。組織の状態は目に見えないですよね。だから、分からないときはどうするかというと、中身を時々見る必要があります。
一種の健康診断じゃないですけど、組織活動の定期診断が必要になります。人間ドックのように定期診断もお金がかかりますから、だからどういう間隔でチェックしていくのかが、結構重要な問題なんですね。良い状態が管理できていれば、診断間隔は長くし、悪いと感じれば、こまめに診断し、組織の緩みを見極める必要があります。
組織運営についても、「品質」を中心とした経済的なバランスを見た上で決めなければ、結局損失が大きくなります。そこの経済性をどうするかという話が、重要となり品質マネジメントの中心課題と考えています。
川村 うまくバランスを取っていかないといけないということですね。
吉澤 そうですね。