これからの特許翻訳⑨ツールとコトバの根本的な問題
近年、翻訳業界全体では機械翻訳の技術が大きく向上するなど、状況は変化しつつあります。今回は、産業翻訳の中でも特殊といえる特許翻訳とは、特許翻訳の今後について、プロフェッショナル2名をお招きし、機械翻訳の影響、またコロナ禍の現状など、お話を伺いました。
目次
知財業界、特許翻訳の特色
特許翻訳の現状 コロナ禍の影響
特許翻訳の現状 関東と関西の違い
特許翻訳と翻訳支援ツール(CATツール)
翻訳支援ツール(CATツール)と翻訳メモリの活用
特許翻訳と機械翻訳
特許翻訳とみんなの自動翻訳@KI(商用版)
特許翻訳とポストエディット
ツールとコトバの根本的な問題
人の翻訳の必要性と機械翻訳との共存
ツールとコトバの根本的な問題
葉山:
ツールを使用する上で、ツールと言語の入出力の問題です。
特許翻訳の原稿上の問題があると思いますが、一つお聞きしたいのは、拒絶理由通知書だったら、原稿はまだファックスが多いですか?
糸目:
最近は、特許事務所が特許庁に電子データを取りに行く方法もあります。拒絶理由通知書などはHTMLデータで処理もできます。
葉山:
HTMLなら、そのまま翻訳支援ツール(CATツール)に取り込めますね。
糸目:
ただし、原稿の右端の折り返しで改行が入っているので、それを取り除かないといけません。それでも、拒絶理由通知書の場合はCATツールを使うことにメリットがあるので、折り返しの改行をとる、という前処理をしています。
葉山:
なるほど。あと、機械翻訳やCATツールを活用する上で、お客様からよく言われるのが特許請求項です。ルール上仕方がないのですが、都度改行がされていて、一文がとても長いですよね。
糸目:
しかも、各特許請求項でクレームするもの自体の記載が日本語の場合、基本的には最後に記載されますが、他の言語ではだいたい最初に来ますし、後ろに修飾がなされることも一筋縄ではいかないところです。
最近、CATツールを導入されている特許事務所では、日本語クレームの書き方自体を英語に合わせてこれまでとは逆にして、クレームの対象を最初に記載しています。たとえば、「画像形成装置であって、〇〇と〇〇を含み、〇〇と〇〇の特徴を有する」といったように。
葉山:
ツールの導入にあわせて日本語原文の書き方も変える、という動きもあるのですか。これまで通りのベーシックな特許請求項の翻訳でも、工夫をしながらCATツールは使用されているのですね。
糸目:
はい。書き方の変更は特許事務所さんにもよりますが。CATツールについてはそうです。
片岡:
はい。私も同様です。
最後に
葉山:
では、まとめのお時間に入ります。本日の鼎談の中でお話しできなかったことや、お伝えしておきたいメッセージはありますか。
糸目:
特許事務所でCATツール導入に反対されている方は、新しくツールを導入したことによって発生する問題に対して、「これまではこんなことはなかった」という理由で導入を渋ったり、最終的に見送られたりします。
私もそれは理解できますが、CATツールも機械翻訳も今後、市場からなくなることはなくて、どんどん市場に広まっていくと思っています。
飛行機が発明されるまでは墜落事故で亡くなる人なんていなかったけれど、飛行機に乗ったら墜落で死ぬ可能性があります。でも、その非常に低い確率のことを恐れて、来週アメリカでミーティングに出なければいけないのに船を使いますか、ということです。
何かを導入すると、新しい問題は当然出てきます。全てを完璧に解決するツールなんて作れないでしょうし、新しい技術が出てくるたびに改善すべき問題が出て、それを改善するためにまた新たな技術が開発されて、発明も結局はそういう改善の積み重ねですよね。
翻訳者も、特許事務所でCATツールを利用される方も、最初から否定するのではなく、どうすれば新しい技術と上手く付き合えるかを考える必要があるということだと思います。
<⑩に続く>