地方創生と多言語化はどうつながる?本当に必要な2つの視点
人口減少の続く地方では、地域内での経済効果は限定的です。地方の経済を維持するには、外の人のもたらす経済効果が欠かせません。
「外の人」には、日本人だけではなく増加傾向にある外国人も想定されています。地方創生には、多言語が必要なのでしょうか。地方創生と多言語化をつなぐ二つの視点について紹介します。
地方創生戦国時代!自治体がこぞってPR合戦
2015年に地方創生担当大臣が配置されたこともあって、47都道府県内の各自治体がこぞってPR合戦をしています。その様子は戦国時代のようだともいわれています。
人口減少の続く地方では、それぞれが魅力的なまちづくりをすることで、外からの経済効果を得られる稼げる街になろうとしているのです。取り組みのなかには、空き店舗や古民家を活用した起業や移住促進を図るもの、伝統的な街並みを活かして集客拡大を図るもの、観光需要を取り込むもの、地場産業を核としたものなどさまざまなものがあります。
伝統的な街並みを活かして観光需要を取り込む施策では、外国人からも一定の支持を集めています。事実、2人に1人の訪日外国人は日本らしい風景や体験のできる地方を訪問していることもあり、外国人による外国人のための日本ガイドのサイトなども人気があります。
猿が温泉に浸かっている風景や緑の山など、日本人が当たり前だと思っているものにスポットを当てた内容になっていて、京都、奈良、東京などの定番都市以外にも集客のチャンスはあると言えそうです。
外国語の案内はないの?訪日外国人の不満
東日本大震災後、一時落ち込んだ訪日外国人数は順調に回復し、2016年には初めて2,000万人を突破しました。しかし、日本を訪れる外国人が増えると問題も出てきます。訪日外国人観光客からの不評ポイントは主に4つ。
- Wi-Fi環境が少なく何度も登録が必要になること
- デジタル媒体での観光情報が少ないこと
- お得なクーポンが少ないこと
- そして日本語以外の観光情報が少ないこと
空港や駅などの多言語化はすでに一程度進んでいて、地図情報やナビゲーションシステムも整備されていますが、観光地での多言語化は取り組みが遅れているのが現状です。
特に、美術館や博物館は日本の歴史や文化を知るのに適した場所ですが、多言語でのガイドが整備されていないので、ただ見るだけになっている状況です。
外国語の案内がある場合でも、徳川幕府を単にTokugawa shogunateと訳しているのは残念な例です。なぜなら、これは徳川幕府とは何かについて一定の前提知識がある人にとっての案内だからです。人によっては、そもそも徳川幕府とは何か、幕府の成り立ちから説明することも必要です。
海外の美術館や博物館では、有料のガイドサービスが一般的に存在しています。
翻訳するだけ、見せるだけではなく、相手によって必要な情報をガイドできるような有料サービスがあれば、喜んで利用してくれるでしょう。
地方創生にはインバウンドだけでなく定住者も大切!欧州に学べ
長期的な地方創生の視点には、一時的な流入者向けの観光サービスだけでなく定住者向けのサービスも必要となってくるでしょう。愛知県や埼玉県などには、多数の外国人が住んでいるエリアがあり、行政、医療、教育の面で日常的に多言語サービスが必要となっています。
日本が今後人口や労働力を維持するためには、こうした外国人の定住者を増やす取り組みも重要です。多文化、多民族が一つの経済圏を形成しているEUの公用語は24ヶ国語にも及びます。EUの市民は、自分の母国語プラス二つの外国語が理解できることが要求されています。
それぞれの公用語には、確立された教授法と学習者の理解度を図るための統一された基準があるということです。フィンランド人の公用語は英語ではないにもかかわらず、EUの中でも高い英語力をもつ国民として知られています。
背景には語学の習得を重視する国家政策もありますが、人口わずか540万人というフィンランドの市場の小ささが最大の理由です。国内市場だけでは成長が見込めないため、零細企業でさえも海外進出を見据えた事業展開を行っています。
また、ゲームやテレビ番組もフィンランド向けにローカライズされることは少ないので、ほとんどの場合は英語版を購入したり、英語で放送されているものをそのまま眺めたりすることになります。娯楽でさえも、外国語の能力がなければ楽しむことができないのです。
そのような意味では、人口が1億2千万人もいる日本は、まだまだ国内だけで食べていける大きな市場だということができるでしょう。しかし、今後は他人事ではなくなってくるかもしれません。
言葉はあくまでツール!人にしかできないことがある
多言語化は必要な施策ではありますが、本質ではありません。言葉はあくまでツールであり、大切なのは外国人も自分たちと同じ感情を持った人間であるという心の在り方です。
観光サービスにしても、定住者向けのサービスにしても、それぞれの人に合った臨機応変できめこまやかなサービスを提供するには、対面でのサービスが基本となります。いきなり多言語に対応するのは自治体にとって負担が大きいので、まずはニーズがある言語だけ対応を始めることも一案です。
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