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CATツールで使える正規表現・第9回

この連載では、翻訳の現場で役に立つ正規表現を取り上げながら、memoQやTrados Studio、XTMのようなCATツール(翻訳支援ツール)で利用できる正規表現について解説しています。 

前回は、全角文字と半角文字のあいだにスペースがあるパターンとないパターンを検索する正規表現を作りましたが、その正規表現には問題がありました。今回は、正規表現の強力な機能である「先読み」と「後読み」を使って、その問題を解決します。

目次[非表示]

  1. 1.何が問題だったか
  2. 2.マッチしても止まらず先を読む「(?= )」
  3. 3.マッチしたら振り返って後を読む「(?<= )」
  4. 4.先読みの否定「(?! )」と後読みの否定「(?
  5. 5.今回のまとめと次回の予告
  6. 6.川村インターナショナルの翻訳サービス

何が問題だったか

まずは前回の問題を確認しましょう。(参照:CATツールで使える正規表現・第8回

前回は、全角文字と半角文字のあいだにスペースがあるというパターンを検索するために、「全角文字+1文字以上のスペース+半角文字」または「半角文字+1文字以上のスペース+全角文字」を表す正規表現を作りました。ところが、その正規表現で、半角スペースを3つ含む「4 月 1 日」に対して検索すると、「4 月」と「1日」は検索できるのに「月 1」が検索できません。

なぜかといえば、ある文字列にマッチしたあとの検索が、マッチした文字列の直後から始まるからです。この例では、「4 月」が見つかった時点で「月」までが検索済みとなり、次の検索はその後のスペースから始まります。

もし「直前の文字が全角文字であり直後の文字が半角文字であるスペース」や「直前の文字が半角文字であり直後の文字が全角文字であるスペース」が検索できれば、「4 月 1 日」の3つのスペースをもれなく検出できます。それを可能にするのが「先読み(lookahead)」「後読み(lookbehind)」です。


マッチしても止まらず先を読む「(?= )」

先読みは「パターン1(?=パターン2)」という形です。先読みでは、まずは「パターン1」にマッチする文字列を検索しますが、それが見つかっても、まだマッチしたことにはなりません。その直後の文字列を「パターン2」と照合し、これもマッチしてはじめて、パターン1のマッチが成功となります。

たとえば、山は「山」ならなんでもマッチしますが、山(?=田)とすると、直後に「田」が続く「山」にのみマッチします。そのため、「山田」の「山」にはマッチしますが「山本」の「山」にはマッチしません。

全角文字と半角文字のあいだにスペースがないパターンは、先読みだけで検索できます。「直後の文字が半角文字である全角文字」と「直後の文字が全角文字である半角文字」を検索すればよいのです。

前回見たように、全角文字は[\p{Lo}\p{Lm}0-9A-Za-z]、半角文字は[\p{Lu}\p{Ll}\p{Lt}0-9-[A-Za-z]]で検索できます。したがって、[\p{Lo}\p{Lm}0-9A-Za-z](?=[\p{Lu}\p{Ll}\p{Lt} 0-9-[A-Za-z]])|[\p{Lu}\p{Ll}\p{Lt}0-9-[A -Za-z]](?=[\p{Lo}\p{Lm}0-9A-Za-z]) とすれば、全角文字と半角文字のあいだにスペースがないパターンをもれなく検索できます。


マッチしたら振り返って後を読む「(?<= )」

一方、後読みは「(?<=パターン2)パターン1」という形です。やはり「パターン1」にマッチする文字列を検索しますが、それが見つかったら、その直前の文字列を「パターン2」と照合します。たとえば(?<=山)田とすると、「山田」の「田」にはマッチしますが「本田」の「田」にはマッチしません。

全角文字と半角文字のあいだにスペースがあるパターンは、「直前の文字が全角文字であり直後の文字が半角文字であるスペース」または「直前の文字が半角文字であり直後の文字が全角文字であるスペース」ですから、先読みと後読みを組み合わせることで検索できます。すなわち、(?<=[\p{Lo}\p{Lm}0-9A-Za-z])\p{Z}+(?=[\p{Lu}\p{Ll}\p{Lt}0-9-[A-Za-z]])|(?<=[\p{Lu}\p{Ll}\p{Lt}0-9-[A-Za-z]])\p{Z}+(?=[\p{Lo}\p{Lm}0-9A-Za-z])という正規表現が、全角文字と半角文字にはさまれたスペースにマッチします。


先読みの否定「(?! )」と後読みの否定「(?<! )」

先読みと後読みの正規表現で「=」を「!」に変えると、否定形になります。つまり、山(?!田)は直後の文字が「田」でない「山」にマッチし、(?<!山)田は直前の文字が「山」でない「田」にマッチします。

これらを用いた実用的な例を2つ紹介しましょう。

まず、本来は全角ハイフン「―」を使うべきところに長音記号「ー」を使ってしまったというエラーを検出してみましょう。このエラーを目で見て探すのは苦行でしかありませんが、直前の文字がカタカナでない長音記号を探せばよいので、正規表現を使えば(?<![ァ-ヴ])ーで簡単に検索できます。

次に、「コンピューター」のように長音記号で終わるカタカナ語を検索してみましょう。「1文字以上のカタカナ+長音記号」で検索すればよいと思うかもしれませんが、それでは「コンピュータ」の「コンピュー」にもマッチしてしまいます。

長音記号で終わるカタカナ語を検索するには、直後の文字がカタカナでない「1文字以上のカタカナ+長音記号」を検索しなければなりません。そこで先読みの出番です。正規表現は [ァ-ヴー]+ー(?![ァ-ヴ])となります。


今回のまとめと次回の予告

今回は、先読み「(?= )」と後読み「(?<= )」およびそれぞれの否定「(?! )」と「(?<! )」を紹介しました。これらはマッチに条件を付加しているとみなせますが、このように、満たされるべき条件を記述するものをアサーション(assertion)と呼ぶことがあります。

さて、これまで、かなり高度な正規表現も含め、さまざまな正規表現を紹介してきましたが、まだ触れていないメタ文字がいくつか残っています。次回はそれらを解説します。


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