DITAで製品マニュアルの制作と多言語化を効率的に
筆者は、川村インターナショナルで主にローカリゼーションの業務に携わっています。担当する作業は動画編集からWordファイルのレイアウト調整まで多岐にわたり、その過程で多くの種類のファイルを扱います。中でも最近気になるのは、操作マニュアルに使用される.ditaという拡張子のファイル形式「DITA」です。そこで今回はDITAとは何か、どのようなメリットとデメリットがあるのかについてご紹介します。マニュアルの翻訳や多言語化の予定がなくても、DXに大いに役立つと思いますので、是非お読みください。
目次[非表示]
- 1.DITAとは
- 2.DITAのここが便利
- 3.DITAの翻訳
- 4.まとめ
- 5.川村インターナショナルのサービス
DITAとは
DITA(Darwin Information Typing Architecture)はXMLを基にしたドキュメント制作用のアーキテクチャーであり、オープンソースの国際規格です。文書を構造的に作成でき、コンテンツを再利用しやすいことから、マニュアルのように情報量が多く、同じコンテンツが複数個所で使われるドキュメントによく使用されています。
Microsoft Wordのようにコンテンツをすべて1つのファイルにまとめたドキュメントと違って、DITAはXML形式の「トピック」(.dita)と「マップ」(.ditamap)、場合によっては.ditavalという複数ファイルの組み合わせからできています。「トピック」はドキュメントを話題(トピック)ごとにファイルに分割(モジュール化)するものであり、「マップ」はそれらを定義して順番などの構成を決めるものです。.ditavalファイルはドキュメントに含められた諸条件を処理して出力を補助します。
DITAのここが便利
トピックごとにファイルが分かれているため、目的に応じてマップを作成すれば、トピックファイルを取捨選択し、目的の異なるドキュメントを簡単に作成することができます。同じトピックを異なるマップで使用することにより、同じコンテンツが簡単に再利用も更新もできるのです。たとえば、同じ製品の取扱説明書と保守説明書を作成するとします。この場合、それぞれのマップを作成すれば、導入部分のトピックは両方のマップで再利用しつつ、ユーザー向けの設定に関するトピックは取扱説明書のマップにのみ含め、保守担当者向けの点検手順のトピックは保守説明書のマップにのみ含めることができます。あるいは、機械の機種ごとにマップを作成すれば、全機種で共通しているコンテンツを簡単に再利用できます。
また、ファイルごとの再利用だけでなく、conref、conkeyrefというタグの属性を使用して、ファイル内の一部分(フラグメント単位)を再利用することもできます。これらのタグは、よく使用される文言や名称をトピックファイルとは別のファイルにまとめておくために使用されます。トピックファイル側でconrefタグまたはconkeyrefタグを使用すると、最終的に出力されるドキュメントでは、別の参照先ファイルに記載してあるテキストが表示されます。これにより、多数のトピックで出現する文言を変更する必要が生じたときに、トピックファイルを直接編集せずにすみます。conref、conkeyrefタグを使用すると便利な例としては、マニュアルのタイトルや機能名などが挙げられます。
また、フィルタリング機能もあります。フィルタリングはコンテンツを出力するかどうかをコントロールします。フィルタリングの例として、自動車のマニュアルを考えてみましょう。複数のモデルが存在するかと思いますが、モデルによって機能が異なります。この場合、タグにモデル名を含めておき、.ditavalファイルで出力するモデル名を指定することで、モデルごとに必要なコンテンツのみを出力することができます。
たとえば、トピックファイル内で以下のように記述します。<p>タグのproduct属性を使用して、モデル名を指定しています。
<shortdesc>機能は下記のとおりです。</shortdesc>(共通コンテンツ) |
.ditavalファイルで、上記の「product=“モデルA”」という属性(product)と属性値(モデルA)を最終出力に含めるように指示すると、モデル名の指定のない<shortdesc>のコンテンツ(共通コンテンツ)と、<p product=“モデルA”>のコンテンツのみが出力され、<p product=“モデルB”>のコンテンツは出力されません。
翻訳に関しても、共通コンテンツとモデルAのコンテンツのみを翻訳する場合が想定されますが、そのような場合はCATツールのフィルタを調整すれば、モデルBのコンテンツをそもそも表示しない、または表示はするものの翻訳対象外とするなど、さまざまな設定が可能になります。
ドキュメントの多言語化を考える場合、たとえば属性「product」を「destination」に、属性値「モデル」を「Spain」や「Germany」などに変えれば、文章と言語を紐づけることができるので、仕向け地ごとの翻訳と出力がしやすくなるでしょう。
さらに、共通コンテンツを更新する必要が出てきたとします。Wordのようにモデルごとのマニュアルを別々のファイルで作成している場合、それぞれのファイルを開いて該当箇所を更新しなくてはならず、ミスも生じやすくなります。一方、DITAを使用していれば、その共通コンテンツが存在する1つのファイルだけ更新すれば終わりです。更新がしやすく、ミスも防ぐことができます。
DITAの翻訳
ここまでDITAのメリットについて述べてきましたが、DITAにももちろんメリットとデメリットの両方があります。まず、大前提ですが、うまく活用するにはDITAを深く理解する必要があります。また、1つのファイルで1つのトピックしか扱わないので、既存の文書をDITAに移行する場合は、構成や内容の大幅な変更が生じる場合もあり、導入が大変です。
すでに述べたように、DITAは情報量が多く、同じコンテンツが複数個所で使われるドキュメントに向いています。だからこそ、情報量が少なく、1つのコンテンツを1回しか記載しない場合は、DITAはその良さを発揮できません。
また、スタイルシートを使うことはできますが、レイアウトに限界があるので、見た目重視のドキュメントには不向きでしょう。
翻訳に際しては、タグが多ければCATツールの最初のフィルタ設定に時間がかかります(とはいえ、最終的には時間短縮につながることが多いです)。また、ここまでにご説明したconrefタグによる別ファイルのテキストの引用や、タグ属性を使用したコンテンツの出力の切り替えについては、仕組みを把握していないと適切に翻訳できない場合もあります。そのため、翻訳を依頼する側だけでなく、翻訳を実際にされる方もDITAについて理解しておくことは、翻訳の全体的な品質と効率の向上に役立つでしょう。
まとめ
専門的な話もあったかと思いますが、DITAの良さが少しだけでも伝わっていたら幸いです。筆者はこれまで主にWordとInDesignのドキュメントを多く扱ってきましたが、最近はDITAファイルが急激に増えてきています。DXが進む中、紙のドキュメントの電子化、さらにWebページ化を検討する場合、DITA形式はとても有用です。導入が大変でも、長期的には大きな時間とコストの削減が見込めるので、DITAを見る頻度はこれからも増えるでしょう。
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