ネイティブでも迷う?英語のコンマの解釈(後編)
前回の記事では、シリアルコンマによって生じる文の曖昧さについてお話ししました。今回は、その解決法、つまり、どうすれば曖昧さを回避できるのかお話ししたいと思います。
前回の記事:ネイティブでも迷う?英語のコンマの解釈(前編)
目次[非表示]
- 1.シリアルコンマによる曖昧さの解決法 その1
- 2.シリアルコンマによる曖昧さの解決法 その2
- 3.シリアルコンマに関する事例
- 3.1. “Hanged on a comma”
- 3.2. 500万ドルのコンマ
- 4.まとめ
- 5.川村インターナショナルのサービス
シリアルコンマによる曖昧さの解決法 その1
前回の記事で使った3の文で見ていきましょう。
前回同様、文末にアスタリスクのある例文は、意味が曖昧になっている例文です。
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3aの文の問題は、招待されたのがmy motherとMaryとSuzieの3人なのか、Maryという名前の母とSuzieの2人なのかが曖昧であるということでした。(3bにはその問題はありません。)
この曖昧さを解決するひとつの方法は、単純に語順を変えることです。例えば、招待されたのがmy motherとMaryとSuzieの3人でしたら、順番を入れ替える(具体的には、my motherを文末に移動する)だけで、シリアルコンマの有無は文の意味に影響を及ぼさなくなります。
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この解決法が可能なのは、最初のコンマの前後にある要素(MaryとSuzie)が、独立した別のものであることが明確だからです。このため、my motherを真ん中に移動(5a)しただけでは、3aと全く同じ問題が残ります。(5bについては、3bと同様に、曖昧さはありません。)
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シリアルコンマによる曖昧さの解決法 その2
他にも、my motherのコンマのあとにas well asを挿入して、3人の順番を入れ替えないままmy motherがMaryと同一人物である可能性を排除することもできます。
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また、母の名前がMaryである場合(つまり、招待された人数が二人の場合)には、
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のように、my motherとMaryの関係性を明示することで、文の曖昧さを回避して意味を明確にすることができます。
シリアルコンマに関する事例
たったひとつのコンマの有無によって文の解釈が曖昧になる。このことは、時と場合によっては非常に重大な結果を招きます。極端な例を2つご紹介しましょう。
“Hanged on a comma”
第一次大戦中、アイルランドはまだ英国の支配下に置かれていました。ロジャー・ケースメントというアイルランドの独立主義者が、祖国の独立を勝ち取るため、大戦の敵国であったドイツ帝国から武器を調達し、アイルランド人捕虜を扇動して、英国の支配に対する蜂起を企図します。しかし、ケースメントは英国帰国時に捕らえられ裁判にかけられます。
裁判では、14世紀に書かれた反逆法の解釈、具体的には、この法が国外での行為にも適用されるか否かということが問題になりました。それを決定する一文の重要な箇所にコンマがあれば有罪、なければ無罪という状況でした。2名の裁判官が文書の現物を確認しに行きました。問題の箇所には、コンマなのか、別の記号なのか、単なるシミなのか、はたまた紙の折り目なのか判別がつかないような代物があったそうですが、確認した裁判官たちがコンマという決定を下したため、ケースメントは反逆罪のかどで絞首刑となりました。
500万ドルのコンマ
2014年、アメリカのメイン州で、3人のトラック運転手が乳製品メーカーを相手に残業代の支払いをめぐって訴訟を起こしました。当時の州法では、以下の業務に従事する者については、残業代の支払いの対象とならないと定められていました。
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参照:The commas that cost companies millions (bbc.com)より
問題になったのは下線の部分です。この文が意図していたのは、出荷のための梱包(packing for shipment)と配達(distribution)は、記載されているそのほかの業務内容とともに、残業代の支払いの対象ではないということでした。しかし、shipmentとor distributionの間にコンマがなかったために、支払い対象外なのは、「出荷あるいは配達のための梱包(packing for shipment or distribution)」であって、配達業務については残業代が支払われるべきであるという解釈も可能でした。この主張が実際に認められ、会社は訴訟に敗れ、500万ドルを支払って和解しました。ちなみに、件の文は、その後の法改正で誤解を生じない表現へと変更されています。
まとめ
前編と後編にわたり、たった1つシリアルコンマがあるだけで文章の解釈が変わってしまうということと、その解決法をご紹介いたしました。たかがコンマ、されどコンマ、です。日本語でも英語でも、またそのほかの言語でも、文書作成の際には、曖昧性を排除して、本来の意図が誤解なく明確に伝わるよう心掛けたいですね。
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