アメリカ式?イギリス式?日付の英語表記と世界の暦(後編)
「アメリカ式?イギリス式?日付の英語表記と世界の暦(前編)」 では英語における日付の翻訳に際して注意しておきたいポイントと、ローマ暦についてご紹介いたしました。後編では、さらに様々な暦を見ていきたいと思います。
目次[非表示]
- 1.ユリウス暦
- 2.グレゴリオ暦
- 3.陰暦
- 4.中歴
- 5.ヒジュラ暦(イスラム暦)
- 6.ペルシャ暦
- 7.まとめ
- 8.参考文献
- 9.川村インターナショナルの翻訳サービス
ユリウス暦
紀元前45年にユリウス・カエサルが改暦を実施した暦。 前編でご紹介したローマ暦でもJuly(Iulius:ユリウス)として、カエサルの名は残っています。
グレゴリオ暦
世界各地で広く採用されている太陽暦。事実上の世界標準暦として機能しています。1582年10月15日に、それ以前に使用されていたユリウス暦を改暦する形で運用が始まり、新年の時期はユリウス暦を踏襲しています。名前は改暦を命じたローマ教皇(グレゴリウス13世)に由来します。改暦とともに一斉に各キリスト教国で採用されたわけではなく、例えば英国では1752年など、徐々に広まっていったようです。
日本では、明治5年(1872年)の11月に改暦が公布されました。そして、12月2日で明治5年が終わり、その翌日がグレゴリオ暦上の明治6年1月1日となりました。つまり、明治5年12月はわずか2日間しかなかったわけです。
キリスト生誕の翌年を紀元とし、西暦の年数であることを示すには、数字とともにAD(anno Domini = 主の年)を使用し、紀元前の年であれば、英語ではBC(Before Christ)、フランス語ではav. J.-C.(avant Jésus Christ)など、それぞれの原語で「イエスの前」の意味を持つ表現を使用します。
現在では、ADの代わりに、宗教的に中立であるCE(Common Era)や、紀元前の年数であればBCE(Before Common Era)やEC(de l’ère commune)なども好んで使用されます。0年は存在せず、西暦1年の前年は紀元前1年となります。旧暦との対比で新暦とも呼ばれます。
陰暦
日本国内に限って言えば、陰暦は改暦前に使用されていた天保暦(旧暦)を指すことが多いですが、より広くは、太陽太陰暦を採用する近代以前の中華暦(さらに広義では太陰暦全般)のことを指します。漢字文化圏の国々では、今でも一年の特別な日のいくつかはこの暦と深く関連していますが、日本では、旧暦8月15日の中秋の名月(十五夜)や十三夜など、月と切り離せない行事がわずかに祝われるくらいです。
一年の始まりは、原則として冬至後の2度目(11月または12月の後に閏月がある場合は3度目)の朔日(新月)と定められ、新年(旧正月)は、中国をはじめ、台湾、韓国、ベトナムなどで、西暦の正月よりも盛大に祝われています。日本ではそれほど特別扱いされていないのは、少し寂しい気もします。ただ、元号については、現在でも使用している国は日本だけです。
四季に敏感な日本では、春の訪れ(立春)も一年の始まりとして考えられていました。しかし、太陽の一年のサイクルとの関連では、立春は毎年ほぼ同じ時期にやってきますが、一年の長さが太陽暦とは異なる旧暦の上では、その年によってタイミングがばらばらで、年によっては年が明ける前に春となることもありました。これは「年内立春」と呼ばれ、古今和歌集の第1首で、「としのうちに 春はきにけり ひととせを こそとやいはむ ことしとやいはむ」(年があらたまる前に春になっちゃったけど、今ってまだ旧年なの、それとも新年なの)と歌われています。
中歴
旧暦と西暦(グレゴリオ暦)との間の季節感のずれを調整するため、西暦の日付を1か月遅らせた暦。仙台市の七夕が8月7日(とその前後の合計3日間)に行われるのは、中暦に基づいているからです。
ヒジュラ暦(イスラム暦)
ヒジュラ暦(イスラム暦)は、純粋太陰暦を採用しているためやや特殊です。ヒジュラ(聖遷)が行われた西暦(当時はユリウス暦)622年を紀元とします。太陽太陰暦のように定期的に閏月を設けることで太陽暦とのずれを調整することをしないため、太陽暦との間に毎年約11日ずつの差が生じ、このずれが解消されることはありません。そのため、地球と太陽との関係の中で行われる(つまり季節的な)営み、代表的なものは農事ですが、それらにとって不向きなため、別の暦を併用して補うこともあります。
陰暦とは異なり、朔日(新月)ではなく、細長い月が見え始めた日(夜)が月の始まりとなります。ローマ暦でも同様だったと言われています。
ヒジュラ暦の年数を示すには、西洋ではAH(anno Hegirae = ヒジュラの年)を数字とともに使用します。ムスリムの国ではH(アラビア文字では、同等の音価を持つ「ھ」)を使用します。
グレゴリオ暦2023年はヒジュラ暦1444/45年にあたり、ヒジュラ暦が使用され始めた622年と比べるとその差は578年から579年ほどまで縮まっています。グレゴリオ暦20841年12月28日にはヒジュラ暦20841年が新年を迎え、4日間だけですが、遂にふたつの暦の年数が同じものとなります。そして、ヒジュラ暦20874年は、その一年が丸ごと同年のグレゴリウス暦(1月3日から12月23日)に含まれる年となります。
ペルシャ暦
ペルシャ語圏で使われている暦です。ゾロアスター教と密接な関係を持ち、12の月の名前もゾロアスター教に関連するものです。春分の日(ノウルーズ)を一年の始まりとする太陽太陰暦で、イランやアフガニスタンでは現在でも公式の暦として採用されています。
暦の紀元はヒジュラ暦と同じものでしたが、イランの学者によって、遅くともアケメネス朝にはこの暦が使用されていたことが1975年に発見されると、時の政府がキュロス2世の即位を期限とする号令を出しました。それにより、ペルシャ暦は一夜にして1354年から2534年となりました。しかし、そのわずか4年後の1979年にはイスラム革命が起こり、暦の紀元は再びヒジュラ暦と同じものとなりました。
これらの国々ではイスラム教の暦であるヒジュラ暦も同様に重要で、さらには、グレゴリオ暦は事実上の世界標準暦となっています。ペルシャ暦とヒジュラ暦の紀元は現在では同じですが、前述の通り一年の長さが異なるため、グレゴリオ暦2023年は、ペルシャ暦では1402年、ヒジュラ暦では1444年と1445年となり、当然月の名前も日付も異なります。
実質的には暦をひとつしか持たない我々からすると、「今日は何日」なのかを考えるだけでも大変な労力を伴いそうですが、効率だけを優先して宗教や歴史を含む自国の文化を安易に切り捨てないことに尊敬の念を抱かざるを得ません。
まとめ
世界にはまだまだ多くの暦がかつて存在し、そして現在も存在します。グレゴリオ暦以外の暦を使用あるいは併用している国を訪れた際には、異国のカレンダーがどのようになっているか見てみるのも面白そうです。
数字を正しく転記することは何においても重要なことですが、異なる文化的背景での説明を前提としているため、数字に対してなんらかの操作を行わなければならない場合もある翻訳・ローカライズでは特に注意が必要です。単位の変換を誤れば重大な事故につながりかねないからです(あの天下のNASAですら考えられないような初歩的なミスを犯しています)。
人、物、思想の流通がますます盛んになるこの時代、異文化をしっかりと敬いながら正確に情報を伝えられるよう心掛けたいものです。
参考文献
高精度計算サイト ke!san 世界のこよみ
https://keisan.casio.jp/menu/system/000000000240
Gregorian calendar
https://en.wikipedia.org/wiki/Gregorian_calendar
List of adoption dates of the Gregorian calendar by country
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_adoption_dates_of_the_Gregorian_calendar_by_country
Islamic calendar
https://en.wikipedia.org/wiki/Islamic_calendar
Chinese calendar
https://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_calendar
Solar Hijri calendar
https://en.wikipedia.org/wiki/Solar_Hijri_calendar
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