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翻訳で失われるダジャレの要素 川村インターナショナルの翻訳ブログ

英日翻訳で失われるダジャレの要素~We were flooredをどう訳す?~

翻訳とは、原文が意味することを別の言語に置き換える作業です。原文が伝えたいことを、一寸の狂いもなく表現する。……常にそうありたいものですが、なかなかうまくいかないのが現実です。

ジョークやユーモア、その国の文化を背景とした言葉などは、そのまま訳しても意味が伝わらないことが多く、翻訳者としては頭を抱えることになります。言葉をただ表面的に訳しただけでは、その裏にあるもうひとつの意味が伝わらず、そのような場合、その言葉が持つ意味は一部が翻訳によって失われてしまうことになるのです。

今回は、川村インターナショナルで翻訳者として働く筆者が遭遇したケースで、特に印象に残っている、翻訳で意味が失われてしまった言葉をご紹介します。

目次[非表示]

  1. 1.We Were Floored
  2. 2.巧妙な言葉選びによるダジャレ
  3. 3.翻訳で失われるダジャレの要素
  4. 4.最後に
  5. 5.川村インターナショナルの翻訳サービス

We Were Floored

筆者がそのテキストに遭遇したのは、とある製品を利用した企業ユーザーのコメント、いわゆる「お客様の声」の一文を見たときのことでした。その製品を利用したことで企業活動にどのような影響があったか、良い点をいくつか並べたあとで最後に一言こうありました。”We were floored.”


be floored”というのは、「圧倒される」とか「衝撃を受ける」という意味です。このときの文脈では、使用した製品があまりにも素晴らしかったので驚いた、という意味でした。なんのことはありません。翻訳するとしたら「非常に驚きました。」などとすれば、きれいにまとまって万事解決です。ところが、この”We were floored.”という一文に、何か引っかかるものがありました。

筆者は日常的に英語に接するようになって15年ほど経ちますが、”be floored”という表現に出会ったのは、記憶している限りこのときが初めてでした。どうして“We were floored.”なのでしょう?

We were surprised.”や“We were amazed.”といった表現でもよいはずです。

なにか胸がザワザワしました。そこで、このコメント主の企業の名前をインターネットで検索にかけてみました。すると、”We were floored.”という表現を選んだ理由がすぐにわかりました。


巧妙な言葉選びによるダジャレ

この企業は、カーペットやラグ、タイルなどの床材を扱うメーカーでした。つまり、「床」のfloorとかけて、意図的に”We were floored.”という言い方を選んでいたわけです。

こうなっては単純に「驚いた」と訳すわけにはいきません。このダジャレをなんとか訳文にも反映させたくなるのが翻訳者。何か床、もしくは床に関連する言葉を取り入れて「驚いた」という表現はできないか、考えることにしました。


「床」で「驚く」……

「床にひっくり返るほど驚きました。」つまらないし不自然!

「愉快(ゆかい)なほど驚きの性能です。」これもなんだかハマらない。


床……

床材は何があるでしょう。木の板、タイル、カーペット、石。

……

布団屋さんなら「吹っ飛んだ」と言えるけれど……


と、しばらく頭をこねくり回してみましたが、「これ!」というものは出てこず……。


翻訳で失われるダジャレの要素

力およばず、次のような理由からダジャレを生かした訳は諦めることにしました。

まず、日本では、扱っているサービスや企業の風土にもよりますが、ビジネスの資料でジョークを使うことはあまりありません。良い訳ができたとしても、日本語の文章として読んだときに浮いてしまう可能性があります。

また、筆者自身、社名を検索するまで分からなかったように、このコメントが表示される場面では、企業名は分かってもその事業内容までは分かりませんでした。そのため、たとえ床に絡めた上手い訳を思いついたとしても、ジョークの意味が伝わらない可能性が非常に高かったのです。

こうして無理やり自分を納得させて、面白味のかけらもない、平々凡々な「本当に驚きました。」という訳文に落ち着きました。このケースでは、ダジャレの要素が失われてしまいました。


最後に

いろいろと理由を並べて当たり障りのない訳になったものの、本音を言うと、翻訳者としては非常に悔しいです!!どうにかして、あのダジャレを伝える上手い訳はなかったかと、あれから約半年、折に触れては頭をひねらせています。

しかし、どれほど考えても一向に思い浮かびません。いつか必ず”We were floored.”の無念を果たすことを心に決め、本ブログの締めとさせていただきます。


ジョークや各国の文化を背景とした言葉は、訳すのが難しく翻訳者泣かせな一方、言語の面白さを実感できるものでもあります。ジョークの翻訳については過去のブログ(Seven Eight Nine,7が8を9った?駄洒落と翻訳)でもご紹介しているため、気になる方はぜひご一読ください。


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