色の名前と翻訳~虹は七色…とは限らない?~
国によって見方の違う「虹」
皆さんは「虹の色はいくつありますか?」と問われたら何と答えますか?
日本では虹は七色(赤橙黄緑青藍紫)と広く認識されていますが、たとえばアメリカでは六色、中国では五色という認識が一般的です。また、共通して認識される虹の色の概念がない国もあるそうです。虹そのものは赤から紫までの可視光線が連続して見えるものなので、虹の色の数に絶対的な正解はないのですね。
ちなみに虹が七色と認識されている由来はニュートン(Isaac Newton)の実験。江戸時代末期に西洋科学の考え方が取り入れられ、日本でも虹が七色になったとか。それ以前は日本でも虹は五色と認識されていたそうです。
日本語の「青」はGreen?
虹をはじめ、色の認識には言語特有の表現が数多く存在します。
英日翻訳をしていて最も注意が必要だなと感じるのは、実は日本語の「青」です。代表的なものは信号機の色で、日英翻訳の場合、赤はRed、黄色はYellowですが、青はBlue…ではなくGreenと翻訳するケースが非常に多いことに気づきます。IT関連の文書でも、たとえばプログラムの処理結果を表現するアイコンなどで「OK」の意味を持つGreen Signalが登場します(Yellowは「注意」、Redは「NG」です)。英日翻訳の際、日本語の感覚だと「青(信号)」となりますが、これを「緑(信号)」と翻訳するよう定めた用語集も多数あります。
日常生活では信号機の一番左側を「緑」と表現することはまずありませんが、日本語で「緑(信号)」という表現を目にしてもそこまで違和感なく理解できるのは、「青(信号)」と言いつつ実際の色は緑色であることを知っているからでしょう。
実は日本に信号機が設置された当初(1930年代)は、日本語でも「緑(色)信号」と呼んでいたそうです。「青信号」と呼ぶようになった理由には諸説あるようですが、山に映える木々や野菜の色など、日本語ではさまざまな緑色のものが「青」で表現されていますね。ちなみに、日本語を含む漢字文化圏では、このようにBlueとGreenを区別せず「青」と表現することは一般的だそうです。
色の翻訳に迷ったら…
さて、Greenを「青」と表現してしまう日本語ですが、一方で色の名前を表す言葉(色名:いろめい、しきめい)は非常に多く存在しています。「和色(わしょく)」と呼ばれる日本の伝統色や、さらにそれらの色の組合せである「襲の色目(かさねのいろめ)」にもそれぞれの名前が付いていて、色名は無限とも言われています。
「色を細かく表現したいけれど、どう翻訳すればいいか分からない…」という場合は、日本工業規格(JIS)を参考にしてみてはいかがでしょうか。JIS Z 8102:2001「物体色の色名(Names of non-luminous object colours)」(注1)は2001年に改正されたもので、鉱工業製品に使用される色として296色の名前が定められています。この296色には固有の名前である「慣用色名」がついていますが、すべての名前を覚えるのはなかなか困難ですね。そこでJIS Z 8102:2001では「系統色名」という区分が定められ、色を系統的に分類して表現できるようになっています。対応する英語も規定されているので、一種の用語集としても参照することができます。
系統色名は、有彩色、無彩色それぞれの基本色名に2種類の修飾語を組み合わせて定義されます。
有彩色、無彩色、それぞれの基本色名は以下のとおりです。有彩色で10色、無彩色で3色が定められています。
修飾語は、明度および彩度に関するものと色相に関するものがそれぞれ定められています。
この他にも、彩度が低い有彩色や色みを帯びた無彩色に対する修飾語が細かく存在します。
JIS Z 8102:2001では、296色の慣用色名すべてについて、上記の系統色による表現方法(コード)が定められています。たとえば「青磁色」という慣用色名は、系統色名で表すと「やわらかい青みの緑」となり、コードは「sfーbG」となります。英語だとSoft bluish greenですね。ちなみに慣用色名「黒」、「鉄黒」、「墨黒」、「ランプブラック」、「ブラック」の系統色名はすべて「黒」(Bk)です。色の名前をすべて系統色で表現するのはやはり難しいのですね。
奥が深い色の表現方法
今回の記事では、色に関するエピソードと、色の英日/日英表現の指針の1つであるJIS Z 8102:2001について紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
冒頭で日本語での虹の色を「赤橙黄緑青藍紫」と書きました。単純に音読みして「せきとうおうりょくせいらんし」と読む言葉ですが、英語では色の頭文字をとって「ROYGBIV」(藍はIndigo、紫はViolet)や、色を覚えるための造語「Read Of Your Good Books In Verse」(良書は韻文で読みなさい)という言葉も存在するようです。
知れば知るほど奥が深く、言語によって多様に変化する色の表現。この記事を書きながら、色の名前や呼び方には、それぞれの言語を使う人々の感覚や歴史が詰まっているのだなと改めて感じました。
※本編の表はJIS Z 8102:2001「物体色の色名(Names of non-luminous object colours)」(注1)をもとに筆者が作成
(注1) Z8102 001, JIS検索, JISC 日本産業標準調査会, https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html, (参照 2019-12-17)
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