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医薬品・医療機器 翻訳サービス:翻訳に必要な医学的知識 No.5 | 結核の治療 ①

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結核の治療①

結核は減少しつつあり、現在はあまり注目されることはないが、昭和30年代まで、わが国に医療行政の中心は結核対策であった。昭和25年まで死因第一位を独占し続けた結核の治療がどのようなものであったかを知ることは、医療文献の翻訳とは直接関係はないが、何かで役に立つと考え、結核治療の変遷について述べてみたい。


結核治療の変遷

18世紀から20世紀前半まで、ヨーロッパ、アメリカおよび日本で結核は死因の1位を独占し、多くの若者が結核で夭折した。元気で活発だった青年が、結核により幽霊のようにやせ衰え、死んでいく姿をKeatsは、自分の将来を予知するかのように、Youth grows pale, spectre thin, and dies.と表現した(spectreは幽霊)。John Keatsは19世紀のイギリスロマン派を代表する詩人で、1821年26歳の若さで、結核で亡くなっている。

結核感染巣は肺、骨、腎臓、リンパ節、脳、髄膜、腸、など、あらゆる臓器に生じるが、もっとも多いのが肺とリンパ節である。中世のフランスおよびイギリスでは、王に触れてもらうと結核性リンパ節炎(るいれき)が治るという、一種の迷信的治療法が広く受け入れられ、18世紀まで続いた。

ドーバー海峡には王の「お手触れ(touch)」を求め、毎年数千の巡礼者が集まったとのことである(ルネ・デュボス著 北 錬平 訳 白い疫病-結核と人間と社会-)。当時、結核は死に至る病で、結核発病は死刑宣告を受けたようなものであった。

20世紀以降、結核治療法の中心は、

  1. 大気(安静)療法(Open- Air Therapy)
  2. 人工気胸療法(Artificial Pneumothorax)
  3. 外科的治療(胸郭形成術(Thoracoplasty)、区域切除(Segmental Resection)など)
  4. 化学療法(Chemotherapy)

の順で、進歩した。


このうち1,2は過去のものとなり、3.外科的治療も特殊な場合を除き、今では行われることはなく、現在の結核治療は、実質的には4.化学療法のみと思ってよい。しかし、過去の治療法とはいっても、1~3は昭和30年代まで日本でも広く行われていたので、以下、簡単に説明する。


1.大気療法(Open-air Therapy)

昭和30年頃まで、日本中の結核療養所(サナトリウム(Sanatorium))で、結核治療の原則は大気療法であった。

この治療法は、19世紀後半から欧米で広まり、日本でも全面的に取り入れられた。スイス、Davosの療養所はThomas Mannの“Magic Mountain(魔の山)”の舞台となり、アメリカではNew York州北部Saranac LakeにEdward Livingston Trudeauが設立した療養所が有名であるが、いずれも現在は史跡となっている。

療養所があった場所には、Trudeauに治療してもらった多くの患者が、感謝の意をこめて建てた記念像があり、台石後面には、フランス語で、

時に癒し
屢々救い
常に慰む

の銘文が刻まれている。有効な治療法がなかった20世紀前半までの結核は、「時に癒し、常に慰む」疾患であった。

大気療法は文字通り、外気(Open-air)を吸う治療法で、冬でも外気を入れるため、窓は開けっぱなしで、現在の医療常識では、野蛮ともいえるような原始的な治療法だった。

昭和30年頃までは、安静(bed-rest)も重要な治療法のひとつと考えられ、日本では大気安静療法という名称を用いることが多い。結核の院内集団感染は日本中で毎年発生し、大きく報道されるが、昭和30年以前には、院内感染が問題となることはほとんどなかった。

理由は簡単で、冷暖房完備で外気を入れない現在の病棟と異なり、昔の病棟は、粗末で隙間風が常にあり、冬でも窓を開けていたので、病棟内の空気は常に外気と入れ替わり、院内感染は起きにくい環境だったからである。

全国の結核療養所で採用されていた安静療法の抜粋を参考までに示す。安静度は1~8まであったが、ここでは安静度1のみとする。

安静度1 絶対安静

朝 
06:30 起床 部屋を明るくしてもらう
07:00 洗面 寝たまま拭いてもらう
07:30 朝食
08:00 絶対安静 何もしないで静かに寝ている


午後
12:00 昼食
12:30 絶対安静 何もしないで静かに寝ている
17:00 夕食
17:30 絶対安静 何もしないで静かに寝ている
20:00 就寝

生活基準表 安静度1

食事:寝たまま食べさせてもらう
便器使用(トイレには行かない)
面会:禁止
歩行:禁止
清拭と入浴:入浴はいけない。清拭は医師の指示による
洗髪:禁止
自由時間の内容:自由時間はない

栄養摂取も治療上重要と考えられ、欧米では食事は1日6食、卵は1日6個以上ということもよくあった。
現在のひとにとっては、人間をブロイラー(Broiler)のよう扱う、過酷ともいえるような治療法であったが、他に選択肢はなく、治療する側も受ける側も、最善の治療法と信じ、忠実に実践していた。

―以下次回に続く―


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毛利昌史

毛利昌史

東和病院名誉院長。東京大学医学部医学科卒業。米国ミネソタ大学留学(フルブライト留学生)ミネアポリス市Mount Sinai Hospital勤務。帰国後、東京大学第二内科助手、東京大学医学部附属病院中央検査部講師、三井記念病院呼吸器センター内科部長などを歴任し、平成15年に国立病院機構 東京病院名誉院長に就任。その後化学療法研究所付属病院院長、東和病院院長を経て現在は東和病院名誉院長。

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