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Film Adaptationの理論から見る映画

映画の中には、オリジナルのストーリーのものもありますが、最近は小説が元ネタで映画となった作品も多くあるかと思います。例えば、『ハリー・ポッターと賢者の石(ハリー・ポッターシリーズ)』、『華麗なるギャツビー』、『不思議の国のアリス』、『プラダを着た悪魔』、『チャーリーとチョコレート工場』など、日本でも大人気のこれらの映画も小説が元の映画です。このように、小説が映画になることを「film adaptation(映画化)と呼んでおり、実は学者の中でも長年研究が進められ論文や理論が発表されている奥深い分野なのです。近年需要が高まっている字幕翻訳とも関わってきます。

今回はその理論と具体的な例をハリー・ポッターシリーズ※の中からいくつかご紹介します。

※ご存じの方も多いかと思いますが、ハリー・ポッターシリーズは、全7巻からなるJ.K.ローリング作のイギリスの小説のシリーズです。2001年に1作目が映画となり、2011年に最終巻の映画が公開されました。

目次[非表示]

  1. 1.現実世界のものに似せる
  2. 2.翻訳理論 -翻訳の違い-
  3. 3.実体のないものはカット
  4. 4.まとめ
  5. 5.川村インターナショナルのサービス

現実世界のものに似せる

小説の中には現実世界にはない架空の物や町などが登場することは大いにありえます。小説の文字情報のみを頼りに映像化するには、架空のものであったとしても視聴者が見るだけでそれが何なのかが伝わるように作りこむ必要があります。

ハリー・ポッターシリーズでは物語の中に、「日刊預言者新聞」という架空の新聞がでてきます。この新聞なのですが、小説の中で与えられている情報は、新聞に掲載されている写真が動くことと、見出しと数文のみです。しかし映画では私たちの日常生活で読まれている新聞に似せるために、見出しに対する本文や映画オリジナルの記事までが作りこまれています。小説での情報を補完して、誰が見ても新聞だとわかる完璧な1面が完成しています。

また、主人公が育った家がある、プリベット通りですが、小説の中では通りの名前しか情報がありませんでしたが、映画の中では海外でよく見かける通りの名前の標識が登場しています。小説にある架空のものを文字情報のみを頼りに映像に落とし込む際には、普段の生活で使用しているもの、目に入るものによく似せられて作られているので、違和感なく見られていたというわけです。



翻訳理論 -翻訳の違い-

原作が日本語でないFilm adaptationでは、それぞれの文化による表現の違いがあり、ここは翻訳が大きく関わる部分です。

第1巻の賢者の石で登場する、「禁じられた廊下」がある階数についてみてみると、原作の小説および映画の日本語字幕では、その廊下は3階にあると記されています。同じ3階で何の違和感もないように思えますが、実は示している階数が異なります

その理由はイギリスではG階(ground floor)が存在するからです。イギリスでは地上からG階、1階、2階…というように階数が表されることが多いため、日本の表示形式で考えると、G階が1階、1階が2階…とズレが生じます。しかしながら、日本語字幕では原作小説にならい、廊下の階数は3階と表現されています。

これは翻訳理論でいう「異化翻訳」にあたると考えられます。異化翻訳とは、起点言語の言語的・文化的な特質をそのまま目標言語での訳に反映させることをいいます。



余談ですが、該当部分の日本語訳の小説は、日本の表示形式にならい、「4階」と書かれています(こちらは、目標言語の文化に合わせて翻訳する「同化翻訳」の理論があてはまります)。この翻訳の仕方であれば、原作と指し示している階層は一致します。

同様のことが、シリーズ第4巻の『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』で登場する、お風呂場でも起こっています。先ほどの説明の通り、日本とイギリスの階数の表示形式ではズレが生じるにもかかわらず、映画ではお風呂場は原作小説と同じ、5階にあると日本語字幕では記されています(こちらも、日本語訳の小説では、日本の文化にならい6階と記載されています)。


原作
日本語字幕(映画)
日本語小説
禁じられた地下
3階
3階(異化翻訳)
4階(同化翻訳)
お風呂場
5階
5階(異化翻訳)
6階(同化翻訳)


実体のないものはカット

ハリー・ポッターのような分厚い小説を3時間程度にまとめようとすると、どうしても全てを完全に表現することは不可能です。その中で実体のないものは映像ではカットされる傾向にあります。

実体のない、無形のものの例として「感情」が挙げられます。巻数が終わりに近づくにつれて、小説内ではそれぞれの登場人物の感情の描写が多かったかと思います。しかしながら、筆者の主観にはなりますが、この傾向があると知って改めて映画を見た時、確かに小説ほどの感情の描写はなく、それぞれの出来事に焦点が当てられて物語が進んでいたように感じました。 他にも実体のないものはあるかと思いますので、そちらも意識して見てみると他にも発見があるかもしれません。


まとめ

今回ご紹介した理論について考えながらハリー・ポッターシリーズだけではなく、他の作品に関しても、違った視点から楽しむことができると思います。また今回紹介した異化翻訳と同化翻訳ですが、マーケティングなどにおける字幕翻訳では、それぞれの文化に合わせた同化翻訳が必須の場面も多くありますので、翻訳の目的に合わせた対応が重要です。もちろん、この他にもfilm adaptationについての理論はまだまだたくさんあるので、またの機会にご紹介できたらと思います。


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