【医薬品・医療機器・医学】科学技術と言葉 vol. 5~新型感染症ワクチンの画期性~
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今回は医療/医薬分野の翻訳案件のレビューを担当する弊社顧問が、新型感染症ワクチンの画期性について解説します。
ワクチンの働き
インフルエンザワクチンをはじめ、はしかやおたふくかぜなど多くのウイルス性感染症にワクチンは効果を発揮してきており、ワクチンは身近な医薬品ではある。
しかし、新型感染症のファイザーやモデルナのワクチンは、これまでのものとは全く違う画期的なものであり、今後のウイルス性疾患への福音となるのは間違いのないところだと考えられる。
そもそも、我々がウイルスに感染してもほとんどの場合に自然治癒する¹のは、体内に侵入したウイルスを体が持つ免疫機能²が攻撃し、ウイルスを排除するためである。
最初にウイルスに感染した場合には、これらの免疫系が作動するまでにはある程度の時間がかかり、また反応も弱い。しかし、2回目以降に感染した場合には、その反応ははるかに敏速に、しかも強力に働くことが知られている。ワクチンは、疑似的に初回の感染を引き起すことによってそれ以降の免疫応答を高め、感染や発症、あるいは重症化を抑えようとするものである。
- 抗ウイルス治療薬はまだそれほど多くは開発されていない。
- ウイルスそのものを攻撃する抗体によるものと、ウイルスに感染した細胞ごと攻撃し増殖を抑える細胞性免疫の2種がある。
画期的な「新型感染症」ワクチンの試み
これまでのワクチンには、病原性を低下させた生きたウイルスを選別してこれを投与するもの(生ワクチン)と、ウイルスの一部のみ(不活化ワクチン;増殖能を持たない)を投与するものがある。いずれもその開発、実用化には5年から10年かかり、その製造にも1年くらいの期間が必要である。
例えばインフルエンザワクチンは、1年前に翌年の流行型を想定し、その準備・製造を開始する。今回のコロナウイルスに対しても、ワクチンが有効であることは予期できたが、すぐに実用化できると考えた人は少なかった。
しかし、ビオンテック/ファイザーの開発したワクチンは、中国での感染が確認され、そのRNA配列が発表されてからわずか45日で臨床試験用のワクチンを製造、それから21日後には臨床試験を開始するという、驚くべき速さで開発を進めた。これを可能にしたのは、従来のように「ウイルスを弱毒化して…」という方法ではなく、
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というこれまで誰も実用化したことのない全く新規なものであった。少し乱暴な言い方をすると、遺伝子治療の手法をワクチンに応用するような最先端の手法である。そして、アメリカなどでの臨床試験の結果は、驚くほどの有効性を示し、全世界での活用に至っている。
このワクチンは、これまでのものとは全く異なり、ヒトに対しての有効性も安全性も大規模な臨床試験で確かめられたものではなかった。これまでも遺伝子治療のようにRNAを医薬品として利用した例がない訳ではないが、ワクチンのように非常に多くの人に投与した経験は無かった。実用化に向けては、いくつものブレークスルーが必要であったし、その多くは新しい知見に基づく全く新しい試みであった。
新しい試みは、我々の周りの機械や道具であるならば、失敗の可能性はあるもののそれほどハードルが高い訳ではない。また、仮に失敗したとしても、やり直せば済むことである。しかし、ワクチンのような医薬品の場合には、人の健康や生死にかかわる問題であり補償すれば済むという問題ではない。従って、これを認可する当局にとっても、開発を行った製薬企業にとっても、この前例のないワクチンを試みるのはハードルが非常に高かったはずだと言わざるを得ない。
医学における言葉の重要性
このハードルを越え、薬として使うことを目的とした必要な臨床試験を行うためには、安全性や有効性についての科学的な裏付けが重要である。しかし、人を対象とする医薬品に関する試験は、『科学的』という言葉からイメージされる(すなわち1+1=2といったような誰しもが納得できるもの)ような、データから直接的に結論が導き出されるものは多くはない。論理的で、納得性のある解釈の組合せによって導き出されることが多く、必ずしも1組のデータから1つの結論のみが導かれるとは限らないのが普通である。すなわち、決定を行う場合においては、言葉が非常に重要な役割を果たすことになる。
承認を行った当局も、その申請を行った企業も、言葉という仲介者を介してその有用性、安全性とリスクを慎重に議論し、天秤にかけたうえで貴重な決断を下したと言える。医学という科学の大きな分野においても言葉が重要な役割を果たしている例として、今回の画期的なワクチンをとらえることもできる。
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