翻訳の品質を上げる!言葉を統一する「用語集」の重要性~日英翻訳の場合~
筆者は、英語を母国語とし、川村インターナショナルで日本語から英語への翻訳(日英翻訳)に携わっています。
翻訳の品質を維持するために必要なものは、スタイルガイド、翻訳メモリ、指示書など、多岐にわたります。それらの中でも本記事では「用語集」に焦点を当て、特に日英翻訳の観点から、用語集の重要性についてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.まずは「統一」
- 2.用語集とは
- 3.用語集がない場合の用語統一問題
- 4.あなたが翻訳者だとしたら
- 5.用語集を作成するコツ
- 5.1.① すでにある英訳を参考資料として使うこと
- 5.2.② 完璧さを求めないこと
- 5.3.③ 翻訳者に相談すること
- 6.まとめ
- 7.川村インターナショナルの翻訳サービス
まずは「統一」
用語集の重要性の話に本格的に入る前に、まずは「統一」の話を少ししたいと思います。
翻訳で正確性が一番重要だとしたら、統一が二番目に重要だと言っても過言ではないと思います。統一と言えば、言い回し、方言、時制などありますが、ここで挙げたい「統一」はより根本的、よりシンプルな、単に「言葉」の統一なのです。
英語の独特な表現の豊かさを生かせば生かすほど美しい英文が書けて、非常に魅力的な英文になると思います。残念なのは、美しい英文は必ずしも読みやすい英文ではありません。その表現の豊かさにも一長一短あり、時には諸刃の剣ともなります。言葉を統一しようとしたら、その表現の豊かさは抑えられますが、言葉が統一されると訳された文書の全体的な読みやすさは倍になると思います。
用語集とは
では、用語集とはなんでしょうか。簡単にいうと、お客様自身が作った対訳用語リストです。翻訳を依頼する時、用語集と原文を翻訳者に渡したら、翻訳者はそれを一つの資料として使えて、より洗練された翻訳を行うことができます。
用語集はよく専門用語、スローガン、そして常套句を統一するために使われていますが、より幅の広い使い方もあります。例えば、「授業」や「検討する」のように、英訳が多い言葉を統一する場合です。
用語集がない場合の用語統一問題
もし用語集がなければ、言葉の統一はかなり難しい問題となります。例としては、「リンゴ」なら「apple」と訳され、「本」なら「book」と訳すのは妥当だと思います。これはさほど難しくはありません。
しかし、ここで問題が発生します。「授業」の英訳として、「class」はもちろん、「lesson」、「course」、「teaching」、「instruction」、そして「session」も使われますが、まれにですが「lecture」も妥当な英訳として使われます。どの英訳が最適かは通常、文脈や参考資料、または過去の翻訳を参考資料として使って判断できる場合もありますが、文脈や資料に頼れない場合もあります。
より高度な例として、「検討する」という言葉を挙げたいと思います。この「検討する」という言葉は困るほどフレキシブルなのです。新聞や雑誌の記事、学生や科学者の論文、政府の施策、契約文書、手紙、遊園地のパンフレットでさえ目にします。「授業」のように、いくつかの英訳はありますが、主に「consider」と「examine」、「investigate」が使われます。
「選択肢を検討します。」というような日本文はよく出てきます。こういう場合、最適な英訳を選ぶ方法は、前述のとおり過去の翻訳を参考資料として使うことです。ただ問題は、大抵の場合、過去に翻訳を行っているのが一名の翻訳者のみではないということです。複数の翻訳者が同じ文書の翻訳を分割して行っている場合、まれに複数の翻訳会社にまたいで多くの翻訳者が翻訳に携わっている場合があり、用語統一が徹底されていないことがあります。
あなたが翻訳者だとしたら
ここで、あなた自身が翻訳者であることを想像してみてください。あなたは過去の翻訳を参考資料として使ってみようと決めました。調べてみたら、次のような三つの例が出てきました。
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これでは迷ってしまいます。
この三つの英文は全て、英訳としては妥当であって意味的に大した違いはありません。では問題は何でしょう?それは、このような統一されていない文が一つの文書に混在していればいるほど、全体的な読みやすさが下がる、ということです。特に、ネイティブではない方が読む場合、完全にわけが分からなくなる場合もあり得ます。
あなたが上記の英訳の中から最適と思われる文を推測して一つ選び、そのまま納品したとします。お客様が訳文に満足したとしても、あなたの選んだ英訳が過去の訳文と統一されていない可能性があります。
もしそのお客様が次の案件を別の翻訳者に依頼したらどうなるでしょう。その翻訳者は、あなたが選んだ英訳とは全く別の英訳を選ぶかもしれません。そうすると用語統一の状況はさらに悪化します。
このように、その場限りの翻訳では問題のないケースでも、長い目で見た場合に統一の取れていない読みづらい翻訳が蓄積されていくことになります。
用語集を作成するコツ
上記のような問題は、用語集を活用して改善することができます。もちろん、用語集作成は簡単ではありませんが、難易度が極端に高いわけでもなく、作る価値は十分にあります。
最後に、用語集をより作りやすくするためのいくつかのコツを紹介したいと思います。
① すでにある英訳を参考資料として使うこと
ゼロからはじめようとすると難易度が高く感じる時もありますが、既存の英訳された文書を参考資料として使えば、手軽に用語集を作ることができます。
過去の英訳が複数ある場合は、その中から一番品質の良いものを選んでベースにし、今後翻訳者へ依頼する際に活用して、翻訳の品質を上げることができるでしょう。
② 完璧さを求めないこと
会社や業界によって用語集の濃度は大きく変わると思いますが、いかなる場合にも最初から完璧な用語集を作る必要はありません。①で提案したように、すでにある英訳をベースにして、その英訳からいくつかのよく使われている言葉を抜粋して用語集に入れたら、それだけでよいと思います。翻訳を重ねるごとに用語集をアップデートしていくことで、自然と洗練され、統一された英訳に近づけることができるでしょう。
③ 翻訳者に相談すること
何より、自分自身で全てを背負う必要はありません。もしよく使う言葉や表現があり、訳として何が一番自然なのか、何が一番妥当なのかを知りたい場合は、翻訳者に相談するのが一番よいと思います。翻訳者なら、適切な訳の提供もでき、状況に応じて、ニーズに合わせたいくつかのオプションも出すことができます。
まとめ
本記事で用語集の重要性を少しでも伝えられたら幸いです。今まで用語集を使ったことがない方は、ぜひ実際に用語集を作成して使ってみてください。翻訳において自然と用語が統一され、全体的な品質がグンと上がっていることでしょう。
川村インターナショナルの翻訳サービス
川村インターナショナルでは、用語集に準じた翻訳を提供することはもちろん、用語集の作成も承っております。
用語集の活用については、過去の連載記事をまとめたホワイトペーパーでも詳しく説明しておりますので、ご興味のある方はぜひご一読ください。
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