翻訳のスピード感が変わる未来【特別対談】翻訳品質と標準化 ⑥
<目次>
翻訳業界のこれからについて
森口 最後に、先ほど機械翻訳の話もでたのですが、NMTや機械翻訳、ディープラーニングが流行るなか、製造業のみならず、サービス業においても、AI活用の気運は高まっているように感じます。これは評価の策定に影響を与えるものでしょうか。
西野 AI全般ということではないのですが、機械翻訳との関わりでいうと、機械翻訳は今さまざまなところで使われるようになっていますから、機械翻訳を評価するというニーズも出てくると思います。
現在はBLEUスコアみたいな自動評価指標が使われているのですが、そもそも自動評価というのは、基本的には機械翻訳の出力と人間が作った参照訳との近さを計算して評価するわけですよね。ですから、自動評価では、参照訳自体を評価できずに、そもそも参照訳が良いのか悪いのかは結局人手評価をしなければならなくなります。
その場合に評価指標が何も整備されていないと、参照訳の評価があいまいになることになってしまいます。そういった場面では、MQMとかJTFガイドラインを活用できるのではないかと考えています。
森口 AIというと何でもかんでも自動でつくってくれるという感覚がありますが、それを作っている人が判断しなければならないものは往々にしてあって、評価指標をつくるときにも、同様に発生する、ということですよね。
これが本当に最後ですが(笑)、翻訳業界の将来についてどう思いますか。
西野 翻訳業界って、分野によって違うじゃないですか。私が知っているのはIT、ソフトウェアに近い分野ですが、歴史的にいうと、そもそもローカリゼーション業界ができたのは、IBMやMicrosoftが「翻訳は自分たちのメインの業務じゃないからと外注しよう」と言って外注先がまとまってできたのがローカリゼーション業界といわれています。
外注できたのは、当時のソフトウェアの開発手法がいわゆるウォーターフォール型だったからです。比較的長い時間をかけて1つのソフトウェア全体を作り、作っているときには基本的には後戻りしないという方法でしたから、翻訳にも長い時間がかけられた。
現在のように、ソフトウェアの開発手法がアジャイルに変化してくると、1つの機能だけを1週間で作るというサイクルを何度も繰り返すということになってくる。
すると、ウォーターフォール型のように2~3年かけて新しいアップデート版をだして、その間に最後の半年間かけて翻訳するということはできなくなりますよね。
今後は、アウトソーシングではなく、社内で処理される面もあると思います。たとえば、翻訳者が社内に入ってプログラマーと机を並べて、プログラムが完了した先から翻訳をするようなやり方が増えていくのかなと感じています。
森口 それは私も思います。「内部」で、「アジャイル」で、「チャンク化」が進んでいますから、翻訳のスピード感が変わるかもしれませんね。開発者ともっと近くなっていかなければならないし、自動翻訳を活用する声も大きくなっている。
自動翻訳の活用の観点からみれば、まだまだ、お客様への課金や、作業者への支払いなどの重要なポイントがあいまいな状態のままのケースが多くあります。
だけど、やはり「早く」処理するというのが非常に重要になってきているので、最初は、わかり易く内部でやってもらって、時間ベースの検証が始まるのかもしれません。つまりワードベースのビジネスモデルがほんとにこれでこのまま続くのかというのは疑問に感じています。
西野 翻訳業界、外注先としての翻訳会社が続いていくかどうかはわからないなと思います。
森口 翻訳の対象となるコンテンツは増え続けていますけど、いわゆる翻訳会社への外注のみというのは確かに難しくなってくるのかもしれませんね。
ただ、一方で翻訳会社が提供できる付加価値も高くなってきているのかなと感じています。翻訳以外に何かができる、たとえば、翻訳支援ツールもそうだし、自動翻訳の技術もそう、人手の翻訳の仕方を勉強するというスクールビジネスもそうだし、ある意味必要な産業ですよね。
西野さんのお話を聞いて、うまく自分たちの差別化要因にできるように、翻訳会社が自ら変わっていかなければいけないのかなと思いました。
「本日はありがとうございました。」