国際標準の翻訳評価の方法が必要【特別対談】翻訳品質と標準化 ④
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実はあまり普及していない、海外発の品質評価フレームワーク
森口 MQMは日本でまだそれほど知られていないですよね。西野さんはいろいろなところ登壇されて情報発信されていると思いますが。あとDQFというのもありましたね。
DQFは、TAUSという業界団体が作っているもので、Dynamic Quality Frameworkの略称でしたよね。DQFっていうのは、いわゆる品質評価をするためのツール群のように見えます。たとえば、WEBアプリケーションにインプットすると、自動翻訳の品質評価をするようなツールですね。
ほかにも評価対象のサンプリングをしてくれたり、作業時間を計測してくれたりする。そういうツール群がDQFと私は思っています。それがMQMと組み合わせたDQF-MQMという名前で公開されたわけです。
つまり、ツール群と、MQMが提唱している評価の指標というか、ガイドラインが組み合わされたというイメージで正しいでしょうか。
西野 DQFのDはダイナミック(Dynamic)なので、ドキュメントの種類に応じて評価するポイントを柔軟に変更するという考え方のベースになっていると思います。
たとえば特許だったら正確さ重視っていうような。つまり、DQFとMQMの考え方はもともと近くて、画一的な指標で評価をするのではなく、ドキュメントに応じて動的に評価しましょうということを推進している。その結果、2015年に、DQFとMQMのエラーのカテゴリを統合したと記憶しています。
DQFは、少々わかりにくいところもあって、大元はドキュメントの種類に応じて動的に評価を変えることを実現するためのツールをWEB上で作っていて、それがツール群ですね。
それがさらに、TAUSは翻訳の対訳データをたくさん持っているのでそれと組み合わせて、もっと踏み込んだ分析をしようというような方向にだんだん成長してきたのだと思います。
森口 たとえば、エラーのカテゴリや傾向を分析して、同業界内における自社の翻訳品質をベンチマークするために使うようなことですよね。ただ、日本ではまだこのツール群は普及していないと思うのですが原因は何だと思われますか?
西野 実は2016年に翻訳品質評価について業界アンケートをJTFで実施しました。そのときに「どのような方法で翻訳品質を評価していますか」という質問で、「会社独自の方法」と回答した会社が120社いました。それに対して、「業界の手法」と回答したのが、11社なので、MQMやDQFはあまり使われていなかった印象ですね。あんまり知られていないのかもしれません。
森口 皆さんあんまり知らないっていうことが一番大きいのかもしれませんね。また、日本語独自の評価が難しいというか、いわゆる欧米発の品質評価規格っていうのが、アジアでは実際に使うためには課題があったりすると思いますが、MQMもDQFもそういうとことがあるのですか。
西野 そうですね。日本語の場合、変換ミスなどの結果で、「同音異義語の誤り」というのがありますが、そういった日本語独特のエラーをMQMやDQFではどう扱うかというのはよくわからないっていうのはありますね。
森口 やはり、欧米発の標準は使い勝手が悪いところもあって、LISA QA modelも日本ではあまり浸透しなかったのは、そういうところが起因していると個人的には思っています。今、JTFでは翻訳品質の評価のガイドラインを策定されていますよね、業界団体としてそこに取り組む動機として、日本のためのものを作りたい、という意識はありますよね。
西野 そうですね。でも、翻訳というのは、国際的な取引が多くなるビジネスですから、翻訳評価の方法が日本と欧米で違っていると、問題が発生するケースがあるかなと思います。国際的なビジネスを円滑に進めるためには、欧米で使われている指標や品質評価の手法なりをちゃんと吸収して、日本でもそれに対する理解を深めて使わないと問題が発生するのではないかと思います。
森口 背景として、国際標準との兼ね合いもあるので、それを基盤としつつも日本語独自の問題も解決したいというところですよね。JTFのガイドラインはどういうステータスで、いつ頃リリースされるのでしょうか。
西野 ガイドラインはほぼ完成しています(6月時点)。おそくとも年内には発行ができると思います。どこまで公開対象を広げるかということについては、まだ検討中なのですが、JTFの会員だけにするのか、一般にも公開するのか、会員でない場合は有料にするのかなどを検討しています。
森口 業界団体が推進することに意義があると思いますので、是非普及するといいですね。
<⑤に続く>