翻訳に特化したスタイルガイドを【特別対談】翻訳品質と標準化 ②
<目次>
日本翻訳連盟(JTF)とJTFスタイルガイド
森口 そうでしたね。いろんな規格というかガイドラインのようなものが策定され始めているのですが、西野さんもJTF翻訳品質評価ガイドライン検討会の中で翻訳品質の評価ガイドラインの策定にも関わられていると伺っています。まずはこの委員会について教えていただけますか。
西野 JTFの中にスタイルガイド委員会という組織がありまして、それが今の翻訳品質委員会です。
森口 翻訳者さんにとってスタイルガイドは重要なものですよね。もちろん翻訳会社にとっても重要ですが、スタイルガイドの目的は、どのように説明をするとよいでしょうか。
西野 翻訳時に参照するものです。決められたスタイルに従って、例えば翻訳物の表記のゆれをなくしたり、表記スタイルを統一したりするために参照します。
森口 例えば、中黒を使っていいとか、どの種類の括弧を使うかとか、そういう類のことですよね。日本語から英語への翻訳の際に使うスタイルガイドとしては、「The Chicago Manual of Style(シカゴマニュアル)」などがありますが、日本語版の標準的なスタイルガイドが存在しなかったということですか。
西野 ITの大手企業が各社で作成したものはありました。例えば、Microsoftのスタイルガイドが有名ですし、IBMが独自に作ったものもありました。
たとえば、テクニカルコミュニケーター協会(JTCA)が出版している「日本語スタイルガイド」のようなものはあったのですが、翻訳にフォーカスした、翻訳に関連しそうなところを重点的にまとめたものがなかった。そこで企画されたのがJTFのスタイルガイドですね。
森口 なるほど。確かに日本語の場合は、ほかにも朝日新聞とか共同通信社とか、新聞社の「記者ハンドブック」とか「用字用語辞典」なんかはありますけど、翻訳に特化したものはなかったですよね。翻訳をする際には、訳文にしか出てこない表現や、原文にしかでてこない表現もあるから、それをルール化しないとよくないということですよね。
あと、特にIT業界の大手企業が、「自分たちのスタイルはこうだ」というものを持っていた気がしますね。業界ではよく使われますが、英数字と漢字の間に半角スペースを入れるのか入れないのかについてもしっかりと決めなければいけないし、カタカナの複合語、たとえばユーザインターフェースの(「ユーザ」と「インターフェース」)間に、中黒「・」を入れるのかとか。でも、問題は各社のスタイルがバラバラだったってことですよね。
いずれにせよ、どういった経緯(ニーズ)があって、業界団体としてJTFがスタイルガイドを作ろうとおもったのかは興味がありますね。ちなみにJTFスタイルガイドを発行したことによって、どのような影響があったのでしょうか。
西野 少し前に業界調査を行った結果、JTFのスタイルガイドを使っている企業が増えていました。大手企業の中でも、わざわざ自分たちでスタイルガイドを策定するのは手間ですから、JTFスタイルガイドを使おうというところが増えているのかもしれません。
実は、私が委員会に参加したのは、スタイルガイドができた後でして、スタイルガイドを普及させるためにチェックツールを作ることを依頼されたのがきっかけでしたので、スタイルガイドを策定しようとした経緯についてはちょっとよくわからないのです。
森口 想像するに業界的に複数の会社が別々のルールを作っているのはメリットがないというところがきっかけではじまったのでしょうね。同じ会社でも部門ごとに表記ルールが違う場合もあり、現場が混乱するケースもありましたよね。
<③に続く>