多義的な用語「ライフサイエンス×ビジネス(マーケティング)」翻訳
前回、翻訳対象内容が複数の専門分野にわたっている場合、専門知識という固定観念に縛られず、柔軟に文書を解釈する能力が必要であるというお話を「ライフサイエンス×IT」分野での翻訳を例に挙げました。
今回は、第二弾としてライフサイエンス×ビジネス(マーケティング)分野での誤訳されやすい多義的な用語をご紹介いたします。
マーケティング翻訳とは
その前に、マーケティング翻訳とは何でしょうか。
マーケティング翻訳は、翻訳のなかでも近年需要が高まっているジャンルの一つです。ITの発展とともに、あらゆる製品やサービスが多様な媒体を通して、消費者へと迅速に提供されるようになりました。マーケティング翻訳は現在、製造業者や仲介業者から消費者へ対象製品を円滑に届けることを目的とし、紙媒体だけでなく、WebやモバイルなどITツールを使った情報媒体が対象となっています。
ライフサイエンス分野の翻訳では、医学、科学、物理に対する深い知識と適切な専門用語の使用が求められる一方、マーケティング分野の翻訳では、わかりやすくキャッチーな英語で表現された英語を正しく読み取り、消費者の購買意欲を駆り立てるような訴求力のある日本語へと組み立てる日本語文章能力が求められます。
それぞれ専門知識と翻訳技量が求められ、両者が合体した「ライフサイエンス×ビジネス(マーケティング)」案件では、高い翻訳能力とフレキシブルな発想力が求められます。
では、実際に誤訳されやすい用語をご紹介いたします。
文脈によって変化する玉虫色の単語
Inclusionは「包含」?
次の文のinclusionの意味をどう解釈しますか。
Inclusion is as important as exclusion. |
Inclusionのような一般的な用語は、どの分野でも登場するので解釈がやっかいです。
医療機器の治験について述べている場合、inclusion criteriaは「組み入れ(選択)基準」、exclusion criteriaは「除外基準」と解釈されます。この場合、criteriaが例外的に省略されているビジネス文書だと考えれば、「組み入れ(基準)は除外(基準)と同様に重要である」と解釈することができます。
また、次の文はどうでしょうか。
Inclusion is essential |
こちらも文脈によって全く変わりますが、もしCSRなどの対外向け文書であれば「インクルージョン」と解釈される可能性が高まります。
インクルージョンとは
組織内の誰にでもビジネスの成功に参画・貢献する機会があり、それぞれに特有の経験やスキル、考え方が認められ、活用されていることを「インクルージョン」(inclusion)と言います。
(出典:weblio辞書)
この場合は「インクルージョンは不可欠である」と訳すことができます。インクルージョンというビジネス用語をさらにかみ砕くなら、「各従業員のスキルや経験、強みを最大限に活かせる環境が非常に重要である」などとなるでしょうか。
また、inclusionは、ほかにも「含有物」や「算入」など全く異なる意味に解釈されます。このような文脈によって自由自在に変化する玉虫色の用語が登場したら、通常よりも警戒する必要があります。文脈を細かく確認し、正しい訳語選定がなされていることを確認する必要があります。
「なんだかおかしい」という違和感を大事に
Cultureは「文化」?
次の例文はどうでしょうか。
Develop culture process. |
Cultureという言葉はライフサイエンス分野では「培養」という意味を持ちますが、マーケティング分野では「社風(カルチャー)」ととらえることができます。
上記の文は、ある文脈では「カルチャーの醸成」と解釈できますが、別の文脈では「培養プロセスの開発」ととらえることができます。全く異なる意味になるため、前後の文章を注意深く観察して解釈することが必要になります。
Solutionは「ソリューション」?
では、次の例ではどうでしょうか。
The solution is basic. |
マーケティング分野でsolutionという言葉が登場した場合、直感的に「ソリューション」や「解決策」という日本語に変換されるかもしれません。
ただ、「ソリューションは基本的である」とした場合、違和感があるのではないでしょうか。
ライフサイエンス分野では、solutionとbasicの意味は、文脈によって全く異なる意味に解釈されます。
ライフサイエンス分野では、Solutionは「溶液」、basicは「塩基性」と解釈でき、basic solutionは「塩基性溶液」という意味を持ちます。
もし前後に指示薬などが登場している場合は、「溶液は塩基性を示す」と解釈することが可能になります。
訳した日本語を見て「なんだかおかしい」という違和感が生じた場合、根本的な解釈が誤っている可能性があります。
この違和感が大事です。立ち止まってあらゆる訳語の可能性を検証する必要があります。ただし、専門知識による固定観念に縛られていると、この違和感に気づかずにすぎてしまうことがあります。思い込みを捨て、常に柔軟な姿勢で文書を読み解く姿勢が望まれます。
以上のように、ある分野と別の分野が混在した案件では、豊富な専門知識と高い読解力だけではなく、常に俯瞰的に文書を眺め、冷静に判断する能力が翻訳者に求められます。
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