海を渡った日本のことば
異質な文化のあいだに交流が生まれると、人や物の移動が相互に活発になり、それに伴って生活習慣や思想といった観念的な部分での交流も行われるようになります。もちろん言語もそのひとつで、新しく入ってきたものや概念を表すために、新しい語彙が使われるようになります。日本にも、ものや文化の流入とともに、世界の諸言語に起源をもつ様々なことばがそのようにしてもたらされてきました。
やまとことば、漢語、外来語
日本語の語彙体系には、主に3つの源流があります。ひとつめは、古来より日本で話されてきた、いわゆるやまとことば。ふたつめは、その高度に発展した様々な文化や制度とともに、それを書き留めるための文字とともに流入した漢語。最後に、その他の諸外国より借用され根付いたことばがあります。日本語にとっては、やまとことば以外はすべて外来語ですが、そのなかにはシャーベット、カメラ、パジャマ、サウナ、ヨガ、デリカテッセンなどのカタカナで記述され比較的わかりやすいものもあれば、襦袢、かぼちゃ、いくら、てんぷら、背広、経済のように、漢字やひらがなによる表記が一般的なためか、意識していないと外来語であることを忘れがちなものまで幅広くあります。特に漢語に関しては、日本における用法も古く、表記が漢字であることも相まって日本語の語彙に深く入り込んでいます。そのため、外来語と呼ぶにはしっくりとこないようなことばも数多くあるような気がします。
世界各地から日本に入ってきたことばがあるように、日本語を語源として世界に広まったことばもあります。前置きが長くなりましたが、今回はそんな海を渡った日本語についてお話ししたいと思います。
海外に広まった日本語の語彙
普段の生活を送る中で比較的よく目にしたり耳にしたりするものが、料理や食材の名前です。sushiやtofuに加えて、もともとは大衆料理でありながら近年ではミシュランガイドで星を獲得するほどにまで昇華したramenも代表的な日本食と言えるでしょう。ご存じの通りラーメンは元々中国からもたらされたものですが、いまや世界各地で大人気のramenは日本で発展したもの。その人気ぶりは本場中国でも例外ではないようです。
果物ですと、nashiやkaki、そしてsatsumaという名前でみかんが売られています。最初に薩摩から輸出されたことでその名前がついたようで、日本におけるかぼちゃや、陶磁器のことを英語ではchinaと呼ぶのと同じですね。余談ですが、英語には漆や漆器を指すjapanということばもあります。キノコ類でも、shiitake mushroom, shimeji mushroom, enoki mushroomなどはスーパーでよく見かけるようになりました。飲み物では、sakeやmatcha、そして、変わったところではkombuchaなどもありますが、こちらは日本で飲まれている昆布茶とは全く別物のようです。
動物の名前にも海を渡ったものがあります。海外で人気の高い日本犬、ShibaやAkitaなどはその代表的な例と言えるでしょう。koiやsika deerなども日本語に由来しています。最近改修工事を終えてテーマパークのように生まれ変わったシンガポールのチャンギ国際空港には、Koi Pondなるものもできたそうです。
文化に目を向けると、19世紀後半のパリの街角にはukiyo-eという響きがよく聞かれたかもしれません。現代では、それに代わってmanga、kawaii、animeなど、ポップカルチャー的なことばでしょうか。ご存じの通り、animeは元々animationという英語でしたが、日本ではアニメと省略されて使用されるようになりました。その後しばらくして、日本製アニメの人気の高まりで豊富なコンテンツを携えて本国へと凱旋帰国しました。
経営用語ではkaizen、写真用語ではbokehなどもありますし、その他にもkaraoke、tsunami、kamikaze、banzaiなど、テレビや新聞などで様々な日本語が使われています。これらのことばに共通して言えるのは、その意味や音の響きから、日本語を母語とする人にとっては、日本語から来ていることがわかりやすいことだと思います。
意外なことばが…
そんななか、日本語が語源であることを知らずにいたことばがひとつあります。私自身で使うことはほとんどなかったのですが、ニュースやテレビなどではよく耳にすることばでした。tycoonということばがそれで、江戸時代末期に、徳川幕府の将軍が外交的に使用した呼称であった大君からきているそうです。綴りが日本語をそのままローマ字にしたものではなく英語っぽいところや、大君という日本語は日常生活で使うことがめったにないので、しばらく知らずに過ごしていました。
逆に、ずっと日本語だと思っていましたが、実は日本語ではなかったことばもあります。海外のスーパーの野菜売り場でokraが売られているのを見たときに、ついにオクラまでも海外で売られるようになったのか、と感慨深いものを感じたのものですが、実はオクラは日本語ではなく、その語源は西アフリカにあるようです。
まとめ
日本で使われている外来語は、西欧の諸言語を経由して入ってきたものが多いと思いますが、そのさらに先を辿っていくと、普段何気なく使っていることばが実は意外な場所に起源をもっていたりします。その昔、どこからどこへ何がやってきたのか。当たり前のように使っている母語でも、少し掘り下げて見つめ直してみると、意外な事実が隠されているかもしれませんね。
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