翻訳業界の大きな変化「クラウド化」
ITが普及し急速な情報化が進む現代社会。翻訳業界もその波に乗り、業界全体でITの普及が加速しました。紙原稿を翻訳し、訳文をワープロに打ち込み、印刷された訳文をチェックして赤鉛筆で修正を入れる・・・このような翻訳プロセスも、いまや昔の話。IT技術の導入により、翻訳業界にも大きな変化がもたらされました。
この大きな変化が過去に2回起こりました、そしてまさに現在また新たな変化が起こり始めており、翻訳業界は過渡期に差し掛かっていると言えるでしょう。
今回は、過去の大きな変化のうちの一つ「クラウド化」に着目し、その実態を紐解きます。
「翻訳」の3つの変換点
翻訳という作業は、過去に2度、技術革新によってそのワークフローが大きく変わってきました。1度目は「デジタル化」で、デジタル機器の発達によるCATツール、TMの登場などによって、それまではせいぜいワープロぐらいしかなかった機械的に翻訳をサポートするツールが様々な形で登場しました。筆者が翻訳の世界に入った10年ほど前までは、まだペンや定規などを使って紙の上に直接文字を入れていく手法を交えた作業もあったので、意外とそれほど昔の話というわけでもありません。
そして2度目はタイトルにもある通り「クラウド化」です。クラウド化はデジタル化の延長とも言えますが、翻訳がクラウド化したことによって、翻訳の現場には実に様々な変化が起きました。クラウドは様々な産業、分野に大きな影響を及ぼしましたが、翻訳の世界でも例外ではありませんでした。
そして現在、3度目の大きな革新が訪れようとしています。「機械翻訳(自動翻訳)」の台頭です。特に近年のAIを活用したニューラル機械翻訳は、従来の機械翻訳と比べるとより正確かつ自然な訳文を出力するので、その活用が始まっています。(機械翻訳の歴史はこちらからご覧いただけます。)
機械翻訳に関しては、当コンテンツで複数の記事を掲載していますので、今回は2度目の革新である「クラウド化」について、実際に翻訳にどのような影響を及ぼしたのか、そしてそのメリットやデメリットについて紹介していきます。
すべてのワークフロー、データがオンライン上に存在
TMSやCATツールのオンラインプロジェクト機能を駆使することによってクラウド化された翻訳プロジェクトでは、発注、受注、納品といったコミュニケーションワークフローやデータの受け渡し、更にファイルの翻訳編集作業にいたるまで、一連の処理をすべてオンラインで完結することができます。
完全に最適化されたワークフローでは、すべての関係者が自分のローカルPCに一切のデータを持つことなく、翻訳の最終段階に到達します。
この事により、まず「リードタイムの短縮」が起こります。1つのプラットフォーム上で関係者が無駄なくコミュニケーションを取ることができるため、工期の短縮とプロジェクト管理コストの削減が期待できます。
また、TMをオンラインで管理する案件では、「品質の標準化」が期待できます。従来では、TMは翻訳や翻訳チェックなどの作業が終わった段階で、翻訳ファイルの内容を手動でTMに反映させるといった方法で管理しており、最新のTMは一箇所にしかなく、メンテナンスも煩雑なものでした。
TMをオンライン上に設置すると、作業者がそれに接続し、エントリーを登録すると即座にTMに反映されて他のユーザーが参照できるようになります。他のユーザーはそのエントリーを参照して作業をすることで、訳が揺れたりすることを防ぐことができ、大規模なプロジェクトにおいての恩恵は非常に大きいものがあります。
メリットは「工数」「品質」の側面の他に、コスト面でも生まれます。翻訳エディターまで一体化したワークフローで作業を行う場合、翻訳者は個別にツールを購入する必要が無いほか、工程全体がスリム化するためサプライチェーン全体にかかる費用が削減され、コンテンツオーナーだけでなく、私達翻訳会社や翻訳者もコストを減らすことができます。
クラウド化されたワークフローが持つ課題とは
その一方で、解決すべきデメリットもいくつかあります。
- 柔軟性にやや欠ける
決められたプラットフォームの中での作業であるため、問題が発生している場合は一定のルールの中で解決する必要があります。
全体的にはカスタマイズ性や汎用性は改善されてきていますが、ツールによってはやや不便なことが発生する場合もあります。
- トラブルの影響範囲が広い
すべてのユーザーが同じ環境で作業を行うため、例えばオンライン上のサーバーがダウンしてしまった場合などは、プロジェクトに関わる全員の作業がストップしてしまいます。また、万が一致命的な不具合がプラットフォーム上で発生した場合、ユーザー側で解決することはほぼ不可能です。
- 便利さを過信すると品質の低下を招く
TMをオンライン上に置くことによる品質面のメリットは先に述べたとおりですが、登録された対訳を即座にリアルタイムで参照できるということは、レビューされていない素訳の状態のものも見えるようになることを意味します。そういったいわゆる「若いTM」を信用しすぎないように周知するなど、運用には注意が必要になります。
おわりに
クラウド化された翻訳プロジェクトにはまだいくつかの課題もありますが、実際にはメリットの方が圧倒的に大きく、今後の業界において安く、早く、高品質な翻訳を提供するためにはオンライン環境での作業はなくてはならないものになりつつあります。
翻訳業界でのイノベーションは日進月歩ですが、このような技術を積極的に取り入れていくことによって私達は次の時代に備える必要があります。
おそらく、近い将来に翻訳は次のステップとして様々な方面での「自動化」が進んでいきます。
クラウド化によってすでに始まっていると言えますが、自動化された翻訳の生産を既存のやり方とどのように融合させていくか、というのが今後の翻訳に携わる人たちの課題となるでしょう。
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