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なぜか読みにくい訳文

「なぜか読みにくい」訳文の正体③要なき主

翻訳された日本語が、どこか読みにくいと感じたことはないでしょうか。意味が間違っているわけではないし、訳し漏れもないし、専門用語も正しく使われている。なのに読みにくい!表現が不自然!こなれていない!

このような訳文は、なぜ生まれてしまうのでしょうか。どうすれば自然な日本語になるのでしょうか。本連載では、「なぜか読みにくい」訳文の正体を突き止めるとともに、不自然さを解消する手段を考えていきます。
(前回までの記事:①遠距離でのすれ違い②命なきモノ

目次[非表示]

  1. 1.読みにくい訳文は「主語」のせい?
  2. 2.注目ポイント:その主語は不要?無用?
  3. 3.注目ポイント:自明か否か
  4. 4.まとめ
  5. 5.川村インターナショナルの翻訳サービス

読みにくい訳文は「主語」のせい?

「ご注文はお決まりでしょうか?」

レストランなどでしばしば耳にするフレーズですね。日本語として何も不自然なところはありません。この言葉は店に来た客に向けられたもの。聞く方もそれを分かっているので、「お客様はご注文はお決まりでしょうか?」とわざわざ主語を付け足す方が不自然に感じられます。

英語は基本的に、「誰が(何が)」のように主語を書きます。これに対し日本語は、冒頭の例のように主語を省略することがよくあります。英語を日本語に訳すとき、英語にあるからといって主語を片っ端から訳し出していると、読み手に「くどい」という印象を与えてしまうかもしれません。

不要な主語、これも読みにくい訳文の正体の1つです。

注目ポイント:その主語は不要?無用?

では、日本語訳で「●●は~」という主語の部分を単純に削ればいいのかというと、それだけではうまくいかないケースもあります。

具体例を見ていきましょう。こちらは、中小企業のイメージ戦略のノウハウを紹介するハウツー記事の一文です。

堅実性と信頼性があるというイメージをあなたが与えたいのなら、顧客はフリーダイヤル番号を当然のこととして求めるだろう。

文自体はそれほど長くないのに、冗長な感じがします。まず目に付くのは「あなたが」ですね。イメージを与えたいのが文の読み手であることは書かなくてもわかるので、これは取るだけでよさそうです。でも、次の節に「顧客は」とあります。これも消してしまうと、さすがに誰が与えたいのか、求めるのか、わかりにくくなってしまいそうです。

ところで、こういう冗長な訳はなぜ出てくるのでしょうか?もしかすると、「訳抜け」や「訳漏れ」と呼ばれる概念が原因なのかもしれません。原文にある単語や文が訳されていない、というエラーですね。「抜け」と判断されることを恐れて、とにかく全部の単語を訳文に入れようとしているのかも。

でも、いらないものはいりません。むしろ「あってはならない」くらいの意気込みで臨みましょう。

こうしてみました。

堅実で信頼できるというイメージを打ち出したいなら、フリーダイヤル番号は当然のものとして求められるだろう。

なくてもわかる「あなた」はバッサリ。後半にあった「顧客」は、「求められる」と受け身の形にすることで省略しました。これで少しすっきりしたような気がします。

注目ポイント:自明か否か

主語にあたる部分を単純に取り除くだけではしっくりこないケースをもう1つ。
次は、データのバックアップの重要性について説明する記事です。


2013年に会社で火事が発生したとき、われわれの救いの1つは、オフサイトにバックアップがあったことだった。そのため、われわれが失ったのは、火事の日に作成されたデータ情報だけだった。

先ほどの例文や以前の記事の例文と比べると、そこまで不自然な感じはないかもしれません。何を言いたい文なのかわかると思います。でも、どこか引っかかる部分はないでしょうか?くどい感じはしないでしょうか?そういう「なんか変」を解決するのが本連載のテーマです!

さて、文の形を大きく変えようと思いますが、出発点は1つめの例と変わりません。書かなくてもわかる主語は書かない!その上で、主語がない状態に合わせて文を「成形」していきます。


2013年に会社で火事が起きたが、事前にやっておいてよかったことがある。その1つがオフサイトバックアップだ。おかげで、火事の日に作成されたデータ情報以外は無事だった。

ポイントは「できるだけ簡潔に」です。
とにかく主語を書かない。書かなくても通じそうか?と考える。特に、今回例に挙げた「あなた」や「われわれ」のような人称代名詞は、省略できるケースが多いと思います。また、同じ主語の文が連続する場合も、2文めの主語を消しても伝わりやすいでしょう。

さらに、普通名詞や固有名詞の主語でも、省略するとすっきりする(かつ不足なく意味が伝わる)場合があります。

たとえば販促資料では、製品名を主語にした文を多く目にします。企業としては製品を印象づけたいので当然かもしれませんが、「●●は~ができます。●●には~の機能があります。●●を使えば~が可能になります」のような文が続くと、ぎこちない印象になることも。1つくらいは●●を書かずに、その製品のメリットの方に焦点を当てると、書き手の意図をくみ、かつ読みやすい文にすることができるはずです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は、英文和訳における主語の扱いに着目して、「なぜか読みにくい」訳文について考えてみました。

なぜか読みにくい、冗長な和訳に遭遇した場合は、不要な主語が訳出されていないかという点に注目して和訳をブラッシュアップしてみるといいかもしれませんね。


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