スピード感が命!ますます増えるUI翻訳
産業翻訳を取り扱う翻訳会社では、お客様から日々多岐にわたる分野やコンテンツの翻訳の依頼をいただきます。その内容はインバウンド向けのリーフレット、会社案内パンフレット、企業HPの翻訳、製品マニュアル・・・と広範囲にわたりますが、その中でも特殊性の高い案件としてUI翻訳が挙げられます。
今回の記事では、翻訳会社のプロジェクトマネジャー(以下PM)がUI翻訳案件をどのようにして動かしているか、ということに焦点を当て、UI翻訳案件の流れを解説します。UI翻訳の翻訳作業自体の特殊性に関しては、こちらの記事で詳しく解説していますので、気になる方はぜひ参照してみてください。
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アジャイル開発とUI翻訳
UI翻訳案件の実際の流れを解説する前に触れておかねばならないトピックが「アジャイル型開発」です。
一般的に多くのIT企業では、システムやソフトウェアの開発手法として「アジャイル型開発」を採用しています。「アジャイル」(Agile)とは、英語で「機敏な」「敏しょうな」を意味し、アジャイル型開発では、開発対象の大きなソフトウェアやシステムを細かく機能ごとに分割し、小さな単位での実装とテストを繰り返し開発を進めていきます。この手法を採用すると、対象のソフトウェアやシステムには細かいスパンで新機能が追加され、そのたびにアップデートがなされます。新機能が追加されると、新たなUIも増えます。つまり、このアジャイル型開発を「翻訳」の目線から注目すると、システム開発に伴い絶えず新たな翻訳対象が生み出され続ける特殊な性質を持つということなのです。
本記事ではそのような「アジャイル型開発」を採用した製品のUI翻訳を想定して解説いたします。
UI翻訳の流れ
一般的なUI翻訳案件のワークフローは以下の通りです。
- お客様より翻訳依頼、発注
- 担当PMが翻訳ボリュームを確認
- 2のボリュームに応じ翻訳者、チェッカーへアサイン
- 作業者からの作業完了連絡後、社内で最終確認
- 納品
- 1にもどる
アジャイル型を採用する製品のUI翻訳案件では、上記の特殊性から、翻訳⇒納品⇒追加翻訳⇒納品⇒追加翻訳・・・のサイクルを繰り返していくことになります。1案件ごとの流れは通常の翻訳案件とあまり変わりませんが、一番異なるのはスピードと案件数です。開発対象のシステムやソフトウェアが巨大な場合や、複数の製品のUI翻訳を担当している場合は、製品のアップデートに伴い絶えずUI翻訳を受注することになります。また、上記のとおりアジャイル型開発ではスピード感が非常に重視されますため、翻訳においても短納期での対応を要求されます。
UI翻訳案件だからこそできる工夫
さて、そのような短納期で複数のプロジェクトを処理する必要に迫られるUI案件ですが、UI案件だからこそできるプロジェクトマネジメント上の工夫がいくつかあります。
1) 特別な事情がない限り、同じ作業者に翻訳を依頼できる
UI案件の「絶えず翻訳が発生する」特徴を活かし、翻訳作業を同じ翻訳者に依頼することができます。UI翻訳のように作業が常に発生する案件でない場合は、通常お客様から依頼を受けた時点でスケジュールに空きのある適切な翻訳者に作業を依頼します。そのため、例えばあるドキュメントの翻訳を納品し、しばらくして追加の翻訳が発生した場合、同じ翻訳者にアサインしたくても、翻訳会社ではすべての翻訳者のスケジュールを常に確保できているわけではないので、スケジュールが空いていない場合は他の翻訳者に依頼せざるを得ないケースが多くあります。しかし、UI翻訳の場合は常に翻訳作業が発生しますので、翻訳者のスケジュールを長期間にわたり確保することが可能です。
翻訳者のスケジュールを確保している場合、タイムリーに作業を依頼することができますので、スピード感のある納品対応が可能となります。また、「同じ翻訳者に依頼できる」というのは品質保持の面においても非常に有効です。翻訳メモリや用語集が充実している場合でも、翻訳者によって訳文は変わってきます(詳細はこちら)。同じ翻訳者に依頼ができると訳文の統一性が計れますし、翻訳者もその製品に対する専門知識をどんどん深めていますので、知識のある翻訳者に担当してもらうことが可能です。
2) メモリの共有による訳ぶれの低減
大きなプロジェクトの場合、短納期に対応するために複数の翻訳者で案件の対応を行うことがあります。このような複数翻訳者を巻き込んだ翻訳案件の場合、訳語に揺れが発生しやすくなります。しかし、UI翻訳のような大型案件、また過去の翻訳データが充実している案件では、過去のデータを翻訳メモリとして翻訳者に配布し、作業の際に参照してもらいますので、訳語の揺れも発生しにくくなります。また、ほとんどのUI案件ではCAT(翻訳支援)ツールを使用しますので、進行中の案件の訳文データも、翻訳者間でリアルタイムに共有することが可能です。
UI翻訳案件の課題と解決策
特異性の高いUI翻訳ですが、強みを活かして工夫できる点もあれば、そのスピード感ゆえに生まれる弱点もあります。
1) スケジュール変更が頻繁
システム開発が並行で行われているので、開発の進行に合わせて翻訳対象が変化します。翻訳のボリュームが変わるたびにスケジュールの調整が必要になるため、ある程度変更を見越した計画を立てなければなりません。ボリュームが予定されていたものから大幅に増加する場合は、作業者の数を増やしたり、お客様と相談して納期の延長をお願いしたりする必要も発生します。想定されたスケジュールどおりに案件を進行させるためには、プロジェクトのステータスについて、お客様との綿密なコミュニケーションをとることが重要な鍵となってきます。
2) 多案件、短納期が多い
プロジェクトによっては月に平均100件前後の案件が発生するため、アサイン漏れ・翻訳漏れ・納品漏れにかなり神経を使います。時期によっては1日に約20件納品が重なることもあるため、しっかり確認しておかないと大混乱になります。後述しますが、社内の翻訳案件管理ツールと予定表を用いて上記3つの漏れに対応しています。PMとしては、かなりのスピード感で案件を処理していく必要があります。
3) ネット接続が落ちるとお手上げ
使用するCATツールによっては、すべての案件の受注~納品、用語集の参照を全てオンライン上で行う場合があるため、ネット接続に問題が発生したり、翻訳システムに不具合が発生したりすると作業が止まってしまいます。予期せぬダウンタイムが発生することも多いため、翻訳者様への迅速なアナウンスや問い合わせ対応が必要です。
スケジュール・案件の管理方法
大型のUI翻訳案件の場合、翻訳会社では専任のPMや専属の翻訳者をプロジェクトに割り当てている場合が多いです。社内に専任のチームがありますので、弱点を克服すべく業務の進行をよりスムーズに行える方策を導入できます。例えば、UI案件ではルーティンの業務が多く発生しますので、翻訳案件管理システムの導入や、独自の案件管理表の活用によって、プロジェクト管理の自動化、一元化を計ることができます。
プロジェクトに即したチームが重要!
いかがでしたでしょうか。UI翻訳はその特異性のため、通常の翻訳案件とは異なる対応が必要になるのです。多くの分量の翻訳を短期間で処理するため、瞬発力のあるチーム作りと、ルーティン業務の自動化/効率化が非常に重要になってきます。
また、翻訳会社内でのコミュニケーションはもちろん、お客様ともプロジェクトのステータスについて綿密なコミュニケーションをとることで、ある程度のスケジュール変更にも柔軟に対応できるようになります。
UI案件のPMは往々にして、スピード感のある仕事のため慌しくしており、非常に細かい調整が必要となる場合がありますが、日々効率よく案件を完了できるように努力しています。
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