翻訳会社との上手な付き合い方 Vol 6 ~依頼編:和文英訳の指示~
日本人のお客様が、英語から日本語に翻訳する英文和訳の依頼を翻訳会社にしたとします。お客様にとって、その成果物の品質を判断するのは比較的簡単だと思います。お客様自身が成果物を見た時に、日本語での良し悪しがわかるからです。
それでは、和文英訳の成果物になるとどうでしょうか。成果物の品質が本当に高いかを確認するのは、英語のネイティブスピーカーでない限り難しいかもしれません。
そこで今回は、和文英訳(日英翻訳)案件のプロジェクトマネージャー(以下PM)が、希望通りの成果物を得るために出すべき3つの指示について紹介します。
目次[非表示]
指示1:既存訳はないか
翻訳の品質にかかわる重要な要件の一つに「既存の翻訳との統一がとれているか」という点が挙げられます。
この要件を満たすために、何らかの形で既存訳が存在する場合は、その資料を依頼時に翻訳会社にお渡しいただくことをおすすめします。
例えば、商品名やシステム名など、すでに固有の英訳が確定しており、依頼する案件も定訳に準拠してほしい場合は「用語集」(各用語が日本語と英語のリストになっているもの)形式で翻訳会社に支給していただくか、既存訳の記載された文書を参考資料としてご提出いただくと、より既存訳に準じた正確な翻訳を成果物として得ることができます。
参考資料をご提供いただいていない場合でも、もちろん翻訳者は商品名やシステム名などの既存訳が存在しないかを調べます。
しかし、会社のホームページ等を確認しても既存訳が見当たらなかった場合は、適宜新しく訳出をしますので、実は既存訳が存在した場合、齟齬が生じる可能性があります。
用語集や既存訳をご提供いただいている場合は、齟齬が発生することもありませんので、もしもそのような資料がある場合はぜひ依頼時に翻訳会社に提供してみてください。
指示2:読み手は誰か
次の指示は、読み手の指定です。
和文英訳では一般的にアメリカ英語を使用しますが、イギリス英語を指定されるお客様もいます。また、誰にでも分かりやすい、平易な英語にしてほしいというお客様もいます。
例えば、米国で展開する店舗のアルバイト向けマニュアルを翻訳する際には、「米国には移民の方がたくさんいて、読者は必ずしも英語が母語ではないため、わかりやすく単純な表現をしてほしい」というリクエストが出てくると思います。
外国人旅行者向けの英語パンフレットやメニューを作成する際も、同じようなリクエストが発生します。英語の案内を読むのは、必ずしも英語を母国語とする人ではないからです。
翻訳会社では、お客様の想定する読み手にふさわしい文体、お客様のリクエストに応えるための文体を選んで訳文に採用します。
ドキュメントの文体に関して希望する形式がある場合、依頼時にその旨をお伝えいただくと、より希望の品質に見合う成果物が納品されるはずです。
指示3:直訳or意訳
最後に、翻訳の品質に大きく関わるものとして「訳調の指定」があります。
訳調は「直訳調」「意訳調」に大きく分けられます。
①直訳調
「直訳調」では、基本的に日本語を一言一句余すことなく英語に置き換えます。
直訳調のメリットは、日本語と英語で伝える情報が同じであることです。そのため、情報を過不足なく正確に伝えることを目的としている文章、たとえば試験問題や機械の取扱説明書が直訳調に向いていると言えます。
この取扱説明書は本機を安全に効率よくご使用いただくために、正しい扱い方について説明しています。
This Operation Manual describes the correct method of handling this machine to ensure its safe and efficient use.
上記の例は機械の取扱説明書です。
世界中で多言語展開をするような日系メーカーでは、このような文書をまず日本語から英語に翻訳し、その後に英語から多言語(フランス語やドイツ語など)に翻訳するケースも多々あります。そういった際にでも、どの言語でも原文である日本語から解離のない文書にするために、まずは原文に即した直訳調の英訳をすることが好まれます。
②意訳調
それに対して「意訳調」では、原文のもつ意味を優先して翻訳します。
たとえば、日本語を一言一句英語に翻訳してしまうと英語として不自然になってしまう時に(ことわざなど)、完全に同じではないが似たような意味を表す英語に翻訳していきます。
意訳調は、読み手に書き手の意図をしっかりと伝えたい場面、特にマーケティング用の文書などに向いているといえます。
ものづくりからはじまるまちづくり
Urban development with fabrication
上記の例は、パンフレットのキャッチフレーズにあたる一文です。「はじまる」に当たる英語が翻訳されていませんが、動詞を省くことで、日本語のひらがなで表されている意図を表現しています。
訳調は基本的に全体を通して統一されますが、たとえば「担当者のコメントの部分だけは読み手に伝わるように、意訳調にしてください」のような指定も可能です。
翻訳の依頼時に、ドキュメントの性質に合った訳調を指定すると、より希望に沿った品質の成果物を得ることができるでしょう。
翻訳の工程でお客様の指示はどのように伝わるか
翻訳会社に出すべき3つの指示の内容は分かりました。
それでは、これらの指示は、翻訳会社でどのように扱われるのでしょうか?
日英翻訳案件では、一般的に下記の工程を経て成果物ができあがります。
「翻訳」では、ネイティブの翻訳者が日本語から英語へ翻訳を行います。
「バイリンガルチェック」では、日英バイリンガルの専任チェッカーが訳文と原文を比較しながらエラーがないかを確認し、適宜修正します。
(モノリンガルチェック・DTPはオプションです。)
そしてこのプロジェクト全体を回す役割がプロジェクトマネージャー(PM)です。
PMは品質管理担当者と相談して、対象の文書をどの翻訳者またはチェッカーに依頼するのが最適かを考え、作業を割り当てます。
翻訳者/チェッカーにも得意な分野、苦手な分野があり、時には意訳調の翻訳が苦手な翻訳者もいます。案件の分野と指定の訳調が翻訳の品質に大きく関わりますので、高い品質の成果物を納品するためにふさわしい翻訳者に依頼します。
そして、お客様からの指示を個々の作業者に詳細に伝え、より良い品質の翻訳を目指します。
例えば、お客様は「意訳調」の翻訳を求めていて、翻訳者も「意訳調」に翻訳したとしても、チェッカーにその意図を伝えられていない場合、「直訳調」になるように訂正を入れてしまうこともあります。
複数の人が関わることによって訳文は完成しますが、多くの人が介在することによってお客様の希望がもれてしまう可能性もありますので、PMが積極的に働きかけ、お客様の指示を作業者それぞれに的確に伝えます。
よい品質の成果物を得るためには、PMの働きが欠かせないとも言えます。
まとめ:たった3つの指示が納品物の品質をガラリと変える
このように、翻訳会社ではお客様の指示を「仕様」として捉え、順守しながら作業を進めます。
依頼する翻訳をどんなシーンで使うか、どんな人に読んでもらいたいか、どんなことを伝えたいか。これらの問いを具体的にイメージしながら、3つの指示を翻訳会社に伝えていただければ、想像していたシーンにぴったりの高品質な訳文が納品されるはずです。
もちろん、川村インターナショナルでは経験豊富な担当者がお客様のご要望を詳細にヒアリングします。具体的にどのような指示を出せばいいか分からない場合でも、担当者から具体的な提案をいくつか出させていただきますので、まずはお気軽にご相談ください。
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