翻訳を効率的に行う秘訣~TMS(翻訳管理システム)編~
「AI」や「IoT」といったキーワードをここ数年でよく耳にするようになってきました。翻訳業界でも、機械翻訳や業務効率化を図るさまざまなツールを積極的に取り入れ、大きく変貌しようという動きが急速に広まっています。
本ブログではこれまでに、CATツール(翻訳支援ツール)や機械翻訳、ニューラル翻訳など、翻訳業務そのものを効率化するテクノロジーについて紹介してきました。
今回の記事では、翻訳に伴って発生する周辺業務や案件管理の効率化を実現するTMS、翻訳管理システムについて紹介します。
目次[非表示]
翻訳のプロセスは複雑?
翻訳はどのように行われるのでしょうか。翻訳案件の一般的な流れを示した図を用意しました。
翻訳会社ではまず、お客様から受け取った翻訳対象のデータ(昔は紙の原稿)と仕様をもとに、見積り作業と作業計画の立案をすすめます。そして、見積り書とともに作業計画をお客様に連絡し、発注の連絡を待ちます。
無事にお客様から発注の連絡をいただいてから納品するまでには、翻訳、チェック、エンジニアリングなど、いくつものプロセスがあり、担当の翻訳コーディネーターが全体の進捗を管理しています。
取り扱うデータの分量が多くない場合は、コーディネーターの作業はそれほど複雑ではないかもしれませんが、翻訳コーディネーターの仕事がいつもこのように進むとは限りません(むしろ、レアケースです)。
進行する複数の案件を同時に管理する場合もありますし、大規模の案件を担当する場合は、複数の翻訳者や翻訳チェッカーの進捗状況を管理する必要があります。多くの案件の処理に追われ、次第に手が回らなくなります。
TMSとは?
こういった翻訳管理者の負荷の高いマルチタスクや、リソース、コスト、スケジュールの管理を効率的に行うために登場したのが「翻訳管理システム」、通称TMS(Translation Management System)です。
TMSは、翻訳のワークフローを一つのプラットフォームに集約し、工程を最適化することを目標としています。ブログやWebサイトを管理するCMS(Contents Management System)の翻訳版、というのが近いかもしれません。
TMSは様々な企業によって開発され、販売されています。仕様や機能は各社によって異なりますが、一般的なTMSには翻訳ワークフローの管理、請求支払いなどの経理の機能、データベース、コミュニケーションツールなどの機能が備わっており、固有の翻訳ツールが実装されているものもあります。
TMSが持つ機能をどこまで利用するかは利用者によってそれぞれ異なりますが、翻訳を請け負う側も、翻訳を発注する側もTMSを利用するケースがあります。
TMSとプロセスオートメーション
TMSを導入すると、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか?
導入によりあらゆる面での業務効率化を期待することができますが、ここでは特に顕著なポイントをピックアップして紹介します。
Integration (情報の一元化)
お客様からのご依頼やご要望に対応するために、翻訳会社ではプロジェクトマネージャーやフリーランス翻訳者を複数名準備しています。
ご依頼いただく案件数が多くなれば、関わるステークホルダーの人数は多くなり、案件の「管理」が必要になります。
TMSには、顧客情報、翻訳者情報、案件の納期、支払コスト、請求金額など翻訳業務の一連のプロセスに関する情報がすべて集約されています(情報の可視化)。また、その情報はリアルタイムに更新されていくので、TMSにログインすると、情報が漏れなく共有されるというメリットがあります。
これらのメリットを享受することによって、たとえば、ある翻訳者の予定のダブルブッキングなどを防ぐことができるのです。
Standardization(プロセスの標準化)
TMSを介して作業依頼を行うことで、作業者はいつも同じ場所からファイルをダウンロードし、決まったフォーマットに記載された情報を確認することができるので、ファイルや情報の伝達ミスを軽減できます。
また、お客様からお預かりしたデータがセキュアなサイト上で管理されているので、情報セキュリティ面においても万全の対策をとることができます。
Automation(プロセスの自動化)
TMSが翻訳業界に登場したのは約10年前。当初、Integration(情報の一元化)とStandardization(プロセスの標準化)が大幅に改善された点で業務の効率化に大きく貢献しました。
近年のTMSは、これらに加えてAutomation(自動化)機能をセールスポイントにしています。
通常、翻訳支援ツールを使って翻訳する際には、翻訳対象ファイルをツールに取り込んで翻訳プロジェクトを作成し、翻訳分量を解析したり、翻訳メモリと接続してエディタ上で作業を行ったりしますが、これらの工程には人の手が必要です。しかし近年開発されたTMSでは、例えば翻訳支援ツールをApplication Programming Interface(API)で連携させることで、こうした細かい工程を自動化することができるようになりました。
ファイルをTMSにアップロードしてボタンを押すだけで、翻訳プロジェクトの作成 -> 分量の解析 -> TMSへの数値入力を自動的に実行したり、翻訳者のアサインや翻訳チェッカーへのファイルの受け渡しを人に代わってTMSが行ってくれたりします。
TMSに備わった機能をフルに活用すれば、GoogleやDeepLのような自動翻訳エンジンと翻訳支援ツールの連携も可能な場合もあり、ボタンひとつで、ファイルに自動翻訳をかけてポストエディットを即座に開始することもできます。
お客様にも嬉しい、導入のメリット
TMSによってもたらされる三つのメリットを紹介しましたが、これらのメリットは翻訳会社などの翻訳案件を管理する側だけでなく、翻訳を発注する側にももたらされます。
開発に開発が重ねられ、競争が活発なTMS市場では、多くの企業が自社製品により多くの機能を備えようと研究開発を行っています。
そんな中で生まれたのが、翻訳会社、フリーランス作業者、さらにはお客様(翻訳の発注元)を巻き込むスタイルのTMSで、このようなTMSでは、お客様も翻訳の発注をより効率的に、自動的に行うことができます。
TMSのプラットフォームに翻訳したいファイルをアップロードし、仕様を所定のフォームに入力するだけで見積りを依頼することができ、そのまま発注をしたい場合は、ボタンを押すだけで翻訳会社に発注できます。
複数案件を依頼する場合は案件を一元管理でき、それぞれのステータスも一目瞭然です。煩わしいメールのやり取りが発生しないため、お客様側にとっても、業務を効率化することができます。
こうした、多くのステークホルダーを巻き込み、それぞれに業務の効率化と自動化をもたらすTMSが多く開発されています。昨今では、memoQやXTMなどのCATツールで、TMSを統合できる機能もリリースされています。今後の変化に目が離せませんね。
まとめ:いまや翻訳管理に欠かせないTMS
いかかでしたでしょうか。TMSの導入に成功すると、業務効率の大幅な改善が期待できることがお分かりいただけたかと思います。
まだまだ模索すべきポイントは多く残っています。しかし、自動化機能をうまく活用することで業務効率化を図り、空いた時間を新しい業務にチャレンジする時間にあてることができるよう支援してくれるのがTMSだと信じ、今日もログインしています。
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