「なぜか読みにくい」訳文の正体①遠距離でのすれ違い
翻訳された日本語が、どこか読みにくいと感じたことはないでしょうか。意味が間違っているわけではないし、訳し漏れもないし、専門用語も正しく使われている。なのに読みにくい!表現が不自然!こなれていない!
このような和訳は、なぜ生まれてしまうのでしょうか。どうすれば自然な日本語になるのでしょうか。本連載では、英文和訳における「なぜか読みにくい」訳文の正体を突き止めるとともに、不自然さを解消する手段を考えていきます。
不自然さをもたらす原因その①「もっとそばにいて!」
翻訳で日本語が不自然になってしまう原因は、いろいろと考えられます。
その一例として、以下の訳文について考えてみましょう。
とはいえ、ファイルや生産性をこれだけ重視しているにもかかわらず、ファイルが外付けストレージデバイスに保存されている場合もあるとAppleが考えていないように思えるのは、少し理解に苦しむ。
うーん、いまひとつ文意が伝わってきませんね。まさに「理解に苦しむ」文です。
誰が考えたり思ったり重視したりしているのか、よく分かりません。その点を明確にしてあげれば、少し読みやすくなりそうです。
そこで、以下のように変えてみました。
とはいえ、Appleはファイルや生産性をこれだけ重視しているにもかかわらず、ファイルが外付けストレージデバイスに保存される場合もあるとは考えていないようだ。これは少し理解に苦しむ。
いかがでしょうか。
「Apple」を前の方に持ってくることで、誰の考えか分かりやすくなったように思います。生産性を重視しているのはAppleで、理解に苦しんでいるのは文の書き手ですね。
変更前の文の問題点は、主部と述部が遠いことでした。「~をこれだけ重視している」という述部と、「Appleが」という主部が離れすぎているため、主部と述部の関係(誰が何をしたか)が不明確になり、読みにくくなってしまうのです。
主部と述部をなるべく近付けるようにすると、伝わりやすい自然な日本語になります。
不自然さをもたらす原因②「君がいるだけで・・・」
他の例も見てみましょう。
次は、世界最大級の携帯電話関連見本市、Mobile World Congress(MWC)に関する記事の一文です。
もちろん、MWCは製品発表以外にも多くのことを提供する。
今度は、何を言いたいのか分からなくもないですね。でも、どこか変。自然な感じがしません。
問題は「提供」という言葉にあります。
「提供」を辞書で引いてみると、「金品・技能などを相手に役立ててもらうために差し出すこと」となっています(出典:デジタル大辞泉)。上の例文だと、MWCという見本市が何かを「差し出す」わけですね。金品や技能を?見本市が?
やはり、「提供」という言葉はこの文脈にふさわしくないように思います。そこで以下のようにしてみました。
もちろん、製品発表以外にも多くの見どころがある。
主語は省略していますが、見本市という文脈を考えると、このような表現が妥当ではないでしょうか。
英語の「provide」や「offer」という動詞は、「提供する」と訳されがちです。英和辞典に載っている訳語ではありますが、「提供」だとうまくいかない場合も少なくありません。むしろ、使うべきでないケースの方が多いくらいです。使うだけで、ぎこちない「翻訳調」になってしまう言葉の典型例と言えるでしょう。
このような言葉には、他にも「含む」「完全な」「もたらす」などがあります。どれもれっきとした日本語ですし、使う場面によっては自然な表現になりますが、安易にこうした訳語を選ぶと、こなれていない文になる恐れがあります。
「翻訳調」になりがちな言葉を意識し、文脈に照らして最適な表現を見つけ出すことが重要です。
- この文脈で「提供する」とは、つまりどういうこと?
- ここで「もたらす」を言い換えるとしたら?
こう考えながら作業するようにしています。
まとめ:ペアで挑む
読みにくい訳文、不自然な日本語ができてしまう原因は、他にもまだまだあります。具体的な原因を突き止め、それぞれの原因に合った対策を考える。この原因と対策のペアを増やしていくことで、いっそう自然な表現の翻訳ができるようになると思います。
次回はまた別の原因と対策をご紹介します。
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