「品質管理」に着目したきっかけ【特別対談】翻訳業界と品質管理①
-日本が誇るものづくりの現場で培われてきた「品質管理」、そして「改善」は、
翻訳サービスの現場にも適用できるはずだ-
創業当初から、「超一流」という経営理念を掲げ、品質中心の経営をしてきた川村インターナショナル(KI)が、統計的品質管理に舵を切ってからはや10年。
その転換期から当社をご支援いただいている吉澤正孝先生(クオリティ・ディープ・スマーツ有限責任事業組合代表/一般社団法人品質工学会副会長)をお招きして、そもそも品質とは何か。そして翻訳会社の品質管理とは、AI時代におけるこれからの翻訳品質管理とはどうあるべきなのかを議論する対談企画です。
品質管理に出会うきっかけ
川村 今日はお忙しいところ、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。吉澤先生には、もう10年近くご指導いただいております。
吉澤 早いものですね。もうそんなになりましたかね。
川村 はい。吉澤先生も、現在は一般社団法人品質工学会の副会長に就任されたと伺っています。
吉澤 一昨々年からです。学術団体の活動となりますが、自分のビジネスとして品質に関することに加えて企業内改革に関連するコンサルティングをやっています。現在の仕事に就く前には、およそ40年近く富士ゼロックス株式会社で設計開発関連や品質を通じた経営革新の推進の仕事に携わってきました。
その延長上で現在、品質を中心とした企業体質に係わる仕事をしております。本来は、技術で社会貢献をする仕事をしたいと思い、機械関係に従事することを目指してきたところに、いつの間にか品質管理とか品質改善をするという仕事に携わることになってしまいました。
経験から言いますと、どんな「ものこと」にも「品質」があります。製品やサービスに関する品質改善だけでなく財務体質、経営品質など組織活動には質が伴います。この質の切り口からみると、共通の改善、革新の要素が見えてきます。
結果としていろんな企業の品質改善とか、体質改善とかのお手伝いができるようになったというのは、そういうところに汎用性のある技術があると思っています。
川村インターナショナルさんも、創立以来品質を中心に経営をされています。翻訳という業界においてどんな事がきっかけで「品質管理」に着目されたのかというのを、お聞かせいただいて、品質に関するざっくばらんな議論をさせていただけたらと思います。
川村 先生も10年私どもの会社を見ていただいて、いろいろなことはお分かりかと思いますけれども、会社を作ったのは、30数年も前になります。その前はコンピューターソフトの専門商社にいました。そこで翻訳を扱うセクションにいて、やはり外部の翻訳会社を使っていました。
吉澤 ええ
川村 そこで翻訳会社から上がって来る翻訳の品質が悪くて、私はその品質をチェックする係でした。修正にすごく時間がかかるので、「時間がかかるのに、これだけのお金を払うのか」というのが、どうしても納得できなかったんです。
その会社には5年いましたが、じゃあ自分でやった方がいいということで会社を作りました。
ところがその頃は、科学的品質管理とか、そういう知識は一切ありませんでしたチェックを担当する人が、全部ノウハウを頭の中に入れていて、その人がいなくなると、ノウハウがなくなって、ゼロからやり直しになるという。シーシュポスの神話のような状況でした。持ち上げて下がり、持ち上げて下がり・・・・・。
吉澤 (笑)経験を活かす必要がありますね。
川村 それで約10年前に、やはり富士ゼロックスに縁のある人が会社に入りまして、品質管理、それから改善ということを科学的にやっていかなければ、毎回同じことの繰り返しになるということで、先生にいらしていただき、それが転機になりました。
吉澤 品質というのは多くの場合、そういう最後の方で作業するところ、あるいはお客様のところで現れてしまうものなのですね。
川村 そうなんですよね。
吉澤 私も前職で入社後、品質管理課に所属しました。そこで部品の信頼度試験に携わりました。親会社がイギリスにあったので、欧米の技術が入ってきて、信頼度試験を行っている会社はあまりない時代でした。
ものづくりの会社でしたから、当時、市場からのいろいろ故障とか部品不良とか、機能不良などのフィードバックが入ってきます。もちろん、それらの不良に対してはメンテナンスをするわけですが、お客さまに迷惑をかけることには違いないのです。
そのようにはならないように事前に部品や装置の信頼度の試験をやって、試験に合格するもの製品を作っておこうというアプローチだったんです。しかし、信頼度試験っていうのも、そもそも設計が悪いと考えられるから試験をやらざるを得ないってことなのです。
川村 はい。
吉澤 このような試験をすることは、設計の事後処理的な観点での仕事であるときが気がつきました。前職でいろいろと活動する中で、川の流れに喩えるわけではありませんが、下流での不良対策では、それこそシーシュポスの神話の再現ですから、徐々に上流で手を打つ必要性を理解していきました。
ものづくりでいえば、研究や技術開発の段階で安定した技術や設計をすることの重要性を学んできました。川村インターナショナルさんを支援させていただきはじめたときも、そういう感じでした。一番後ろの工程で、問題が現れていたわけです。
川村 そうです。最後に、人がわーっと直して、力技でものが出て行く。これではまったく効率も悪い。
吉澤 そうですね。