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医薬品・医療機器 翻訳サービス:翻訳に必要な医学的知識 No.18 | 呼吸器疾患の主訴(Respiratory System)Vol.1

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呼吸困難(Dyspnea)、息切れ( Shortness of Breath(SOB))

呼吸器疾患の主な症状として、呼吸困難については以前にも述べたが、今回は、より詳細に説明する。

1) 病因(Etiology):呼吸困難の原因となる疾患

呼吸器疾患:例 慢性閉塞性肺疾患(COPD、肺気腫と慢性気管支炎)、肺線維症など

循環器疾患:例 心不全、肺水腫、肺血栓塞栓症、肺高血圧症、など

神経・筋疾患:例 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis ALS) など

血液疾患:例 貧血(Anemia)

その他:例 パニック症候群など

呼吸困難の原因疾患は、これら5項目のいずれかに該当する筈であるが、実際には、複数の要因が関与している場合もあり、単純明快に病因を特定できないともしばしばある。


2) 呼吸困難の鑑別診断(Differential Diagnosis)

呼吸器疾患

重症化すれば、総ての呼吸器疾患で呼吸困難は必発であるが、主なものを以下に列挙する。

気管支喘息(Bronchial Asthma)
小児喘息の多くは、成長と共に改善するが、初発が中高年になってからの喘息は、難治性喘息(intractable asthma)に移行することがある。気管支喘息は、気道過敏性(なんらかの刺激により、気管支平滑筋が攣縮しやすくなる状態)が主病態であるが、その原因は気道壁の炎症(inflammation)とされている。

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)
COPDは、肺気腫(Emphysema)と慢性気管支炎(Chronic Bronchitis)のいずれかであるが、ほぼ全例が喫煙者である。中高年の男性に多いが、女性喫煙者が増えたことにより、最近は女性のCOPD症例も増加しつつある。 肺気腫と慢性気管支炎は、一方があれば、他方がないということはなく、いずれの要素が多いかが問題で、ほとんどのCOPD症例で、両者は混在している。 気管支喘息は、非発作時には喘鳴は消失し、ほぼ正常状態に戻る(=可逆性:reversible)のに対し、COPDでは、細気管支(bronchiole, small airway)や肺胞壁(alveolar wall)が破壊され、気腫化が進み、病変は非可逆性(=irreversible)である。ただし、COPDでも、気管支喘息の要素が混在していることもあり、そのような症例では、喘息の治療によって呼吸困難が改善することはある。 慢性気管支炎では、低酸素血症(Hypoxemia)があっても、息苦しさはあまり訴えない。しかし、肺気腫では、顔色はピンクで、酸素飽和度はほぼ正常であるにもかかわらず、強い息切れを訴える。低酸素血症によるチアノーゼと、浮腫様顔貌を伴う慢性気管支炎はBlue Bloater、顔色はピンクでも、息切れがひどい肺気腫はPink Pufferと呼ぶことがある。

間質性肺炎(Interstitial Pneumonitis)
原因不明の特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonitis, IIP)は昔から有名で、例えば、美空ひばりは、52歳の若さでIIPにより亡くなった。

肺結核後遺症
昭和30~40年頃まで、化学療法がまだない頃の肺結核の治療は、胸郭形成、肺区域切除、などの外科的治療が主体であった。命は助かっても、これらの手術を受けた症例の多くは、年を取ると、肺、胸郭が動きにくくなり、呼吸不全(Respiratory Failure)に移行した。在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy, HOT)を受けているひとは、現在はCOPDが最も多いが、平成以前は、肺結核後遺症が大勢を占めた。

循環器疾患

心不全(Heart Failure)、肺水腫(Pulmonary Edema)
左心室の拍出力低下により、肺に血液が溜まり、うっ血状態となる。肺水腫による呼吸困難では、仰向けに寝ると息が苦しくなるため、患者さんは起坐呼吸(Orthopnea)となることが多い。 肺水腫でも、喘鳴が顕著となり、気管支喘息との鑑別がむずかしいことがある(=心臓喘息(Cardiac Asthma))。現病歴だけで、ほぼ診断はつくが、最終的には心電図、胸部X線など診断の決め手となる。 高地肺水腫(High Altitude Pulmonary Edema, HAPE)は、2000m程度の登山でも起きることがあり、生命にもかかわることがあるので、HAPEについては素人登山者でも知っておく必要がある。おかしいと思ったら、直ちに下山するのが正しい判断である。

肺血栓塞栓症(Pulmonary Embolism)
末梢静脈に生じた血栓が剥離し、右心房、右心室を経て肺循環に入り、肺動脈を閉塞することがある。長時間、動かずに座った状態が続くと下肢に血栓が生じ、肺塞栓症を起こすことがある(エコノミークラス症候群 Economy Class Syndrome)。日本人よりは欧米人で生じやすいが、日本人でも腹部手術後に肺塞栓症を併発し、急死した横綱がいる。

神経・筋疾患

筋萎縮性側索硬化症(ALS):神経難病のひとつ

小児麻痺(Polio):ポリオワクチンの普及により、日本ではないと思ってよい。

脊髄損傷(Spinal Cord Injury) :頸髄損傷(例:交通事故、スポーツ災害)
頸髄損傷により呼吸筋麻痺が生じ、自発呼吸が不能となることがある。


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毛利昌史

毛利昌史

東和病院名誉院長。東京大学医学部医学科卒業。米国ミネソタ大学留学(フルブライト留学生)ミネアポリス市Mount Sinai Hospital勤務。帰国後、東京大学第二内科助手、東京大学医学部附属病院中央検査部講師、三井記念病院呼吸器センター内科部長などを歴任し、平成15年に国立病院機構 東京病院名誉院長に就任。その後化学療法研究所付属病院院長、東和病院院長を経て現在は東和病院名誉院長。

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