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耳鼻咽喉科疾患の主訴

医薬品・医療機器 翻訳サービス:翻訳に必要な医学的知識 No.16 | 耳鼻咽喉科疾患の主訴 Vol.1

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耳痛(Otalgia: Ear Pain)

病因(Etiology)および診断に役立つ所見(Signs)

1.外耳(Outer Ear)疾患

外耳(Outer Ear)は鼓膜(Tympanic membrane)の外側で、外耳道(External ear canal)および耳介(Pinna)から成る。鼓膜は中耳に属する。

耳痛を訴える外耳疾患としては、

  • 外耳炎(Otitis externa) 例:ブドウ球菌による皮膚感染症(耳垢除去後の感染など)
  • 外耳道異物(Ear canal foreign bodies) 例:小児が異物を外耳道に挿入
  • 耳垢(Ear wax)による外耳道狭窄もしくは閉塞
  • などがある。

成人の外耳道炎は、耳かきなどによる皮膚損傷部のブドウ球菌感染が多い。通常は、抗生剤を服用しなくても、数日で自然に治癒する。

外耳炎では、耳介を引っ張ると(Pulling on the ear)痛みが誘発される。耳介を引っ張って、「痛い」と患者が叫んだならば、外耳炎と診断して、ほぼ間違いない。

2.中耳(Middle Ear)疾患

急性中耳炎(Acute otitis media)

耳痛を訴える疾患の中では、中耳炎がもっとも頻度が高い。中耳炎は乳幼児を含む小児に多い。乳幼児では、耳痛があっても、意思疎通が不十分で、大人にはわからないことがある。したがって、耳痛の有無がはっきりしなくても、小児では、上気道感染と発熱がある場合、急性中耳炎の併発は、常に考慮する必要がある。

急性中耳炎は、上気道(Upper airway:喉頭、咽頭)と鼓室(Tympanic cavity)を結ぶ耳管(Eustachian tube)を介し、上気道から中耳にまで、感染が拡大することにより生じる。原因は肺炎球菌、インフルエンザ菌などの細菌感染が多いが、ウイルス感染のこともある。耳管は鼓室内圧と外気圧を等しくするための通気管で、耳管閉塞もしくは狭窄があると、外気圧の急激な変動(例:列車がトンネルに入った時、飛行機の急上昇もしくは急降下時、など)により、鼓膜の内側(鼓室)と外側(外耳道)の間に圧差が生じるため、鼓膜は膨張もしくは陥凹し、耳痛や耳鳴りの原因となる。このような場合、飲み込む動作により、耳管が開き、大気と鼓室内圧との間の圧差がなくなるため、耳痛はすぐに消失する。トンネルに入った時の耳鳴りや耳痛が、飲み込む動作により改善したことは、おそらく誰もが経験している筈である。耳部の平手打ちや、爆風(Barotrauma)による鼓膜破裂などの鼓膜損傷(Injuries to the tympanic membrane)も耳痛の原因となる。

聴力障害がなかった小児で、機械式腕時計を左右の耳にあて、一方で聞こえて他方で聞こえない場合は、耳垢による外耳道閉塞、もしくは中耳炎の可能性を直ちに疑う。

中耳炎の診断は、病歴、耳痛などの臨床症状と共に、鼓膜の発赤、腫脹などの所見があれば、ほぼ確実と思ってよい。

3.放散痛(Referred pain)

耳部と顎関節(Temporo-mandibular joint, TMJ)、上臼歯、頸椎、舌底部、咽頭部などの知覚神経の分布は、かなり重複している。したがって、例えば、顎関節に炎症が生じると、痛みは耳痛として感じることがある。耳痛の患者で、鼓膜に異常がない場合、耳以外の部位からの放散痛の可能性も考える必要がある。

大きく口を開くことができない、かみしめると痛みが増強する、などは、顎関節炎を疑わせる症状であり、耳痛出現の前日に歯科を受診した、などの病歴がある場合は、歯疾患との関連を疑う必要がある。


聴力障害(Hearing Impairment)、難聴(Hearing loss)

耳痛は小児に、聴力障害は、高齢者に多い。加齢による聴力低下(とくに4000Hz以上の高音領域の聴力低下)は、個人差はあるが、必発と思ってよい。

音波は、①外耳道を経て、➁中耳の鼓膜(Tympanic membrane, Ear drum)を振動させ、③耳小骨(Ossicules, つち(Malleus)、きぬた(Incus)、あぶみ(Stapes))を介し、④内耳の蝸牛(Cochlea)で電気信号に変換され、⑤聴覚神経(Auditory nerve第8脳神経(Eighth cranial nerve)を経て、⑥大脳聴覚領域に到達、音として認識される。聴覚障害は①~⑥のどの部位の病変によっても生じうる。


分類

伝音性難聴(Conductive hearing loss)
①~③の障害による難聴(外耳、中耳疾患による難聴 例 耳垢による耳道閉塞)

感音性難聴(Sensory-neural hearing loss)
④~⑥の障害による難聴(内耳、聴覚神経、大脳聴覚領域の病変による難聴)

一般的に、小児の難聴は伝音性難聴、高齢者や、薬剤の副作用(例:ストレプトマイシン)による難聴は感音性難聴が多い。成人の突発性難聴(Sudden sensory neural hearing loss SSNHL)も感音性難聴である。耳垢による外耳道閉塞は高齢者難聴の原因の約30%を占める。耳垢を除去すれば聴力は改善するので、高齢者の難聴を診察する場合、外耳の観察を怠ってはならない。


予後(Prognosis)

伝音性難聴の多くは、予後は良好であるが、慢性中耳炎による難聴の改善は、通常期待できない。老人性感音性難聴(Prebycusis)、メニエル病(Meniere’s disease)、長年の騒音による難聴、ストレプトマイシンや抗がん剤による薬剤性難聴も予後は悪く、補聴器の使用など、ある程度の対応は可能であるが、加齢とともに進行は避けられない。

突発性難聴(SSNHL)の70~90%は、ほぼ完全に回復する。同じ薬剤性難聴でも、アスピリンや抗マラリア剤、ループ利尿剤による難聴は予後は比較的良好である。


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毛利昌史

毛利昌史

東和病院名誉院長。東京大学医学部医学科卒業。米国ミネソタ大学留学(フルブライト留学生)ミネアポリス市Mount Sinai Hospital勤務。帰国後、東京大学第二内科助手、東京大学医学部附属病院中央検査部講師、三井記念病院呼吸器センター内科部長などを歴任し、平成15年に国立病院機構 東京病院名誉院長に就任。その後化学療法研究所付属病院院長、東和病院院長を経て現在は東和病院名誉院長。

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