【MT summit XVI 開催間近!】 特別インタビュー企画
「機械翻訳の現状と未来」
1987 年に第 1 回会議が箱根で開催されて以来、30 年の歴史のある MT summit。機械翻訳(MT)の研究開発に利用者の目線を加えた代表的国際会議として、2 年毎にアジア・太平洋地域、欧州、米州の順で開催されています。
2020 年の東京オリンピックに向けて、機械翻訳技術に対する機運もこれまでになく高まっているなか、今年は 1993 年の第 4 回神戸大会以来 24 年ぶりに日本(名古屋)で開催されることになりました。
今回は、【MT summit XVI 開催間近!】特別インタビューと題しまして、アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)会長の、中岩浩巳 名古屋大学特任教授をお招きして、機械翻訳の現状についてのインタビューと、9 月に開催を控えた MT summit XVI の見どころをご紹介いただきたいと思います。
目次
「MT summit XVI @名古屋大学 豊田講堂の見どころ」
アジア太平洋機械翻訳協会について
森口:今回は、MT summit XVI が日本で 24 年ぶりに開催されるということで、我々も機械翻訳(MT)に関わりながら仕事をしていますので、ぜひ盛り上げていきたいところですね。最初に、弊社も加盟していますが、アジア太平洋機械翻訳協会についてご紹介いただきたいと思います。まず歴史からお願いしてもいいでしょうか。
中岩:そうですね。アジア太平洋機械翻訳協会は昨年度で 25 周年を迎えました。つまり、1991 年に設立なのですが、最初は日本機械翻訳協会という名称でした。
アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)の設立の背景には、すでに開催されていた MT summit の存在がありました。つまり、MT summit があって、そこから、日本国内でも利用者と研究者が研究発表する場や、情報交換をする場を設けようとなったわけです。それをきっかけにして、1991 年に日本機械翻訳協会となりました。
その後、世界の各地域にも広がりまして、ワシントンで行われた第 3 回 MT summit を契機に、国際機械翻訳協会(IAMT)と、3 つの地域組織であるアジア太平洋、ヨーロッパ、アメリカからなる、国際的な機械翻訳の組織になりました。
森口:もともと MT summit が最初にあったからなんですね。
中岩:そうなんです。MT summit の成り立ちからいうと、当時日米の貿易摩擦があった時に、海外から日本の情報に対してアクセシビリティが悪いといった意見があって、国家として日本語の情報を海外に発信しようというような Mu プロジェクト(http://www.aamt.info/localportal/japan/history.html)が立ち上がっていました。
それが母体となりまして MT summit が始まって、そして MT summit をきっかけとして日本機械翻訳協会ができました。
それまでは、どちらかというと機械翻訳の使い方を含めてユーザーサイドでもはっきりとしていないこともありました。一方で、ニーズが出てくるにつれ、当時としてはいろいろな研究成果が出てきたわけです。それで機械翻訳を使ってみましょう、と。
日本でも、当時は電機メーカーさんが各社でルールベース(後述)という方式の機械翻訳研究開発をして製品として販売していたということもあって、その流れから日本機械翻訳協会が設立されました。それが国際的な組織としてアジア太平洋地域を管轄する現在の形になったということですね。
森口:日本が最初でそのあとに欧米が続いたということでしょうか。
中岩:日本が最初ということについてはわかりませんが、少なくとも日本がかなりイニシアティブをとっていて、当時京都大学総長だった長尾先生が中心となって当時の通産省にも支援いただきながら、MT summit も AAMT も成長していきました。企業、通産系の組織ということでそういう成り立ちからスタートしたと聞いています。
現在は、組織的な構造としてはアジアには AAMT があって、北米にはアメリカ機械翻訳協会(AMTA)があります。厳密にいうとアメリカ大陸なんで北米だけではないんですが。ヨーロッパにもヨーロッパ機械翻訳協会(EAMT)があります。アメリカ、アジア太平洋、ヨーロッパという3つの組織の上位組織として機械翻訳国際連盟(IAMT)が存在しています。
森口:なるほど。機械翻訳協会という名前ですから機械翻訳に関連する様々な活動に携わられていると思うんですけど、具体的にいくつか挙げていただくことできますか。
中岩:まず一つ目は、機械翻訳課題調査委員会という組織があります。そこでは、機械翻訳の利用方法だとか、ニーズだとか、機械翻訳使ってもらうための啓蒙活動など、機械翻訳にまつわる様々な調査や、研究、広報活動をしています。
機械翻訳課題調査委員会の活動としては、第一に、機械翻訳技術の評価方法の検討があります。また、機械翻訳がどう活用されているのかの調査もしています。
たとえば、最近では日本翻訳連盟(JTF)の翻訳祭というイベントでアンケートを実施させていただいて、翻訳業に携わっている方にとって、機械翻訳はどう受け止められているかを毎年調査しています。
最後に、用語への取り組みがあります。以前から機械翻訳を使う場合の大きな問題として分野によって用語が違っていることが挙げられます。
もちろん各ユーザー企業が用語をそれぞれ作ってもいいんですけれども、バラバラの用語を整理することは無駄ですし、いわゆる情報資産は共有しましょうという時代になっていることもあり、ユーザー辞書というか、各分野の利用者が使う辞書の標準フォーマットを設計しようと考えています。これがUniversal Terminology eXchange (UTX)ですね。
そして二つ目の活動ですが、日本特許情報機構 (Japio)と一緒に活動している AAMT/Japio 特許翻訳研究会があります。
ここでは、各方面にご協力いただきながら特許の翻訳技術に関する調査研究をしています。
Japio 様からの受託という形で、AAMT からメンバーをそろえて、一緒に調査研究をするという活動です。
あとは今回の MT summit のように、会議の企画運営にも携わっています。2 年に一度開催される MT summit がアジア太平洋で開催される際の運営もしています。
また、毎年機械翻訳フェアを当協会の総会時期に合わせて実施しておりまして、そこでは我々の活動の報告だけではなくて、会員様のデモンストレーションや商品紹介の場を提供しています。
あとそれ以外にも会員向けに AAMT ジャーナルを発行しています。
森口:もともとの歴史から考えると会員はメーカーさんとか、研究開発に携わられてる方々がメインなのかなという感じはするんですけど、現在の会員構成はどんな感じでしょうか。
中岩:数十社の法人会員様、それは機械翻訳のベンダーの方々もそうですし、利用者の方々もいらっしゃいます。そういう法人会員の方々が 30 社程度だと思うんですけど、それと同等くらいの方々が個人会員の方がいらっしゃいます。個人の翻訳者であったり、長年機械翻訳の研究をされている方々だったり、大学の先生をしていたり、いろいろですね。
なにしろ機械翻訳技術だけの学会ではないし、機械翻訳の利用だけの学会ではないので、それぞれいいバランスで参加していただいてると思います。
特に最近は皆さんご存知の通り機械翻訳の技術が使えるんじゃないかということで利用者の方々の会員が増えている状況にあります。
森口:ニューラルネット機械翻訳が世に出て以降、機械翻訳に対する注目度は高くなっています。先ほども名前が出た日本翻訳連盟(JTF)は、翻訳者の方たちや翻訳会社が加盟している業界団体なんですけど、そちらでも AAMT として機械翻訳についてセッションを設けられたりしていますよね?
中岩:そうですね
森口:今お話をいただいたように、人手翻訳に携わっている一定の層が機械翻訳のユーザーという立場になって相互に乗り入れてくるような時代になってきたのかなと感じていますが、その点はどうですか。
中岩:技術的にかなり進歩したことが、おそらく一番大きいでしょうね。機械翻訳を使うためのソリューションとか、ベストプラクティスみたいなものも出てきました。周辺のツール群というか支援ツール系もかなり出てきているし、欧米を中心に機械翻訳を使って効率的に翻訳しますよという事例が出てきたりしている。