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「翻訳者登録制度」セミナーを終えて思うこと



「翻訳者登録制度」セミナーを終えて思うこと


2017年7月4日(火)に開催した「翻訳者登録制度の概要」第一回は、盛況のうちに終了しました。本セミナーは、私が講師を務めさせていただきました。


セミナーの概要

今回のセミナーでは、2017年4月から始まった翻訳者登録制度についての概要を説明しました。


登録制度については、日本規格協会主・日本翻訳連盟・日本知的財産翻訳協会共催で2017年4月17日と5月31日に説明会が開催されましたが、そこで使用した資料を参考にしながら、当社契約翻訳者のニーズに合わせて質疑応答の時間を増やした形で実施しました。


今回セミナーを開催した背景には、制度の開始とともに、申請に関わる手続きや提出書類に関する質問が増えてきたことがあります。


翻訳者の個のチカラが重要視される時代に

ISO17100規格の概要と趣旨の説明や、実際の登録制度の申請方法などがセミナーのメイントピックでした。


その説明の中で、ITローカリゼーションの業界においては、アジャイル開発のサイクルに対応するために、翻訳者だけで完結しなければいけないプロジェクトが増えており、そしてそれにより、ますます翻訳者個人のチカラをクライアント企業が積極的に評価したがっていることを説明しました。


それについて「想像していたのとは違った。」、「自分の取り組んでいることについて自信をもった」というコメントを多数いただいたことが一番印象に残っています。


ITローカリゼーションの業界では機械翻訳後のポストエディットで処理する案件がほとんどで、人手による翻訳の比率はほとんどないと考えている方が多いようでした。


ポストエディットの案件が急激に増えてきているのは事実ですが、ポストエディットは質よりもコストとスピードを重視したソリューションですから、その反動なのか、重要な文書では人手翻訳がいまでも圧倒的に比率が高いのが実情です。


機械翻訳の精度が向上した今、不安に思われる翻訳者の方々が多いということかもしれませんが、翻訳者の重要性が再認識されている企業が増えていることはあまり知られていないようです。

  案件との出会いは運次第?

 この業界では、相性の良いプロジェクトに出会うことが重要だと思います。いろいろなプロジェクトに出会うためには、複数の翻訳会社に登録すればよいかというと、それはそれで骨が折れます。無償のトライアルをいくつも受けなくてはいけないし、契約書を交わしたけれど案件が中々出てこない。


こういったケースは、当社でも残念ですが発生してしまいます。事実、今回ご参加いただいた中にも、取引が始まったばかりで案件をご依頼できていない翻訳者様がいらっしゃいました・・・。

翻訳者としての制度活用

相性の良いプロジェクトは、発注されるタイミングも良いものです。独立したての方は、そういったプロジェクトに出会うまではとにかくトライアル行脚をされているのかもしれません。翻訳者の方々は個人事業主の方が多く、営業活動もままなりません。効率よく実施したくとも、なかなか難しいかもしれません。


翻訳者登録制度は、登録すれば自身の情報がWeb上に公開されて、クライアントや翻訳会社から直接声がかかるメリットもあります。


また、何よりAPT(Advanced Professional Translator)として登録している翻訳者にはトライアルを免除する会社も出てくるでしょう。事実、当社も既にAPTの方についてはトライアルを免除していますが、今後はトライアル免除の方針を打ち出す翻訳会社が増えることを期待しています。


よくある質問

2015年にISO17100が発行されて以降、私は各所で規格の内容や、翻訳者登録制度についてお話をさせていただく機会が増えました。


「御社は翻訳者登録制度を後押ししているようですが何故ですか」とよく業界の方に質問されます。人によっては「何かしら御社のお金になるんですよね」なんて言う方もいらっしゃいます。なりません(笑)。


 その都度「当社のメリットは今のところありません。」と答えています。むしろ直接個人の皆様に発注されるケースが増えて、小規模プロジェクトは減ってしまうリスクも翻訳会社側にはあります。「今のところ」と表現しているのは、現時点ではメリットがないが、制度が普及すれば採用の効率化が図れるという我々側のメリットが出てくるからです。

当社が制度を活用する理由

まず何よりISO17100 の要求事項に対応しなければなりません。

当社はISO 17100 の認証を取得していますから、当規格で要求されている資格や力量を持っている翻訳者様の協力が欠かせません。


次に人材を効率よく確保したい

当社はスクール事業を運営していませんので、翻訳者を目指している人たちに網羅的に、体系だった教育を提供することも出来ていません(もちろんその分、実際のプロジェクトごとの教育には相当力を入れていますが)。

我々の業界は翻訳者の方々のお力添えがなければ成り立ちませんが、翻訳者の採用に関しては、選択肢に限りがあります。社内翻訳者の採用か、トライアルでのフリーランス作業者の採用が主です。ですから、信頼性の高いソースから効率的に質の高い翻訳者を発掘したい。これは翻訳会社なら当たり前の欲求です。


もう一つは、検定試験自体の透明性向上に対する期待です。


結局どの検定試験が一番役に立つ?
よくわからない現状を良くしてほしい

業界の中には、ほんやく検定や知的財産翻訳検定の他にも、ITソフトウェア翻訳士などの検定試験もありますが、検定試験が多すぎて、正直どの検定の何級以上を持っている方が活躍できる方なのかは良いのかわかりません。工業英検やTOEICで翻訳者の力量を示すことができると考えている方もいるくらいです。


検定試験を実施している各団体の背景、理念、目標はみなほぼ同様で、「業界のため優秀な人材を育成する/発掘する」ことだと思います。ただ、受ける側や合格者のメリットも検定試験の数だけバラバラで、効果も低減している気がします。


結果として、検定試験の信頼性の向上につながらないばかりか、その試験に合格した翻訳者の力量が正しく理解されず、仕事につながっていないのが実情ではないでしょうか。


個人的には、オーストラリアのように、優秀な翻訳者を育成する高等教育機関が日本にもでき、国家認定資格の試験制度が普及するのが翻訳者の地位向上に直結すると思っていますが、道のりは長そうです。


そもそも各種検定試験のレベルが均一化されていればあまり問題にならないかもしれませんが、これもまた現状とは異なります。


検定試験を実施する側も評価されるべき

今回の翻訳者登録制度では、検定試験の実施団体から要望があれば、その運営状況を日本規格協会が審査することになっています。

問題がなければその検定試験は対象の検定試験として登録され、その合格者に翻訳の力量があることを認める形となっています。各種検定試験のレベル合わせを調整する組織も存在しています。


現在、受験できるすべての検定試験が適切に運営されているのでしょうか?


問題の策定や評価、合格者への対応。これらをしっかりと運営して、さらには合格者へのメリットが創出できなければ、検定試験自体も淘汰されるべきだと思います。


そういった意味でも、各種の検定試験がその運営方法や、自分たちの試験のレベルを他の試験と比較することは、自らのプロセスを見直す良いチャンスになると思います。


制度について丁寧な説明が必要

最終的には、現在実施されている様々な検定試験がこの制度の対象となり、レベルやプロセスが統一されることで、検定試験自体の信頼性向上⇒合格者の信頼性向上につながってほしいと思います。


翻訳者登録制度がそのような発展を遂げるかは、結局登録をする検定試験の数や今後の登録翻訳者数の推移次第でしょう。


こういった社会的な枠組みが普及するためには、丁寧な情報発信が必要になります。日本規格協会にもそういった場を増やしていただけるよう期待したいですし、当社としてもセミナーなどを開催して、興味を持たれている翻訳者の方々に出来る限り情報発信をすることを心がけたいと思います。


この制度をきっかけに検定試験とその合格者の力量認定の信頼性が向上し、合格者には仕事が増えるというような、より分かりやすい構造に変化することを期待しています。

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森口功造

森口功造

株式会社川村インターナショナル代表取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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