グローバルマーケティングとローカライゼーション、 翻訳はどうなるの?
グローバルマーケティングとは、地球全体を一つの市場として捉えるマーケティングの戦略です。もともとは大規模な多国籍企業が、各国の拠点で無秩序に行われていたマーケティングを標準化し、企業が持つあらゆる経営資源を、国境を越えて共有して効率化を図るための考え方として生み出されました。近年ではインターネットの発達や、商品そのものの多様性の高まりにより、その考え方は大企業だけなく、中小企業にも広まってきています。
マーケティングのグローバル化は、翻訳をはじめとしたローカライゼーションに非常に大きな影響を与えました。ある分野では翻訳の仕組みそのものが組み替えられたといっていいかもしれません。(ローカライゼーションと翻訳については、こちらの記事にて解説していますので、ぜひご覧ください。)
この記事では、グローバルマーケティングの実例を紹介しつつ、翻訳会社がどのように関わっているのか、そして将来的な展望について説明します。
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グローバルマーケティングの目的
企業がグローバルマーケティングを戦略に取り入れる目的は大きく2つあります。
一つは「ブランディング」、もう一つは「効率化によるコストダウン」です。
その2つを非常に効果的に実現し、成功を収めている代表的な企業に、Apple を挙げることができます。
実際に Apple の Web サイトを見てみましょう。
日本語のサイトと比較しても、まったく同じデザインが採用されています。
動画やCMなどでも同じ素材が使用されていることがあります。
(https://www.youtube.com/watch?v=dnGs2eOE6hQより)
(https://www.youtube.com/watch?v=k4uRi67DDvEより)
もちろん、中には日本独自に作成されたマーケティングコンテンツもありますが、Apple はほかの企業と比べて特にグローバルマーケティングを徹底しており、このような言語が変わってもデザインは変わらないコンテンツを随所に見ることができます。
グローバルマーケティングのメリットとデメリット
メリット
Appleのようなグローバルマーケティングを行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか?Appleのマーケティングの結果より、グローバルマーケティングを行うと以下のようなメリットが得られることがわかります。
- 全世界で統一されたイメージを発信
- マーケティングのコストを全世界で標準化
これだけ見ると、グローバルマーケティングを採用すると良い事ばかりもたらされるようにも見えますが、実はデメリットもあります。
デメリット
先ほど例に挙げたようなAppleの手法では、一つの素材(オリジナル)を翻訳して世界中で使い回すことが前提となるので、元のコンテンツを100%活かそうとすると、多言語に翻訳した際にどうしても無理が出てくることがあります。
実際に具体的な例を見てみましょう。
「オリジナルを翻訳して再利用しなければならない」場合、上の例のように少し困ったことになることがあります。
オリジナルの「A revolution in recognition.」に関しては、本国で響くキャッチコピーとするべく、多くの時間と人材が投入され考案されたものと推測されます。キャッチコピー単体でなく、その製品機能のコンセプトからデザインまで、多くの面から複合的に考慮されて、生み出されたのでしょう。
しかし、このオリジナルの素材を使いまわす場合、他の国では原文を対象言語に翻訳するだけで終わってしまい、翻訳したフレーズを、例えば日本で響くフレーズにすべく意訳したり、改変したり、デザインそのものを変えたりすることなく終わることが多いです。
日本独自のキャッチコピーを考えたり、コンテンツを作成したりするとなると、「翻訳ではないコスト」がかかり、またブランドの統一感を損ねてしまう可能性もあるからですね。
翻訳だけではなく、どのあたりまでローカライズするかというさじ加減は企業によって異なってきますが、Apple の場合は「企業イメージの統一(またはコストカット)>ローカライズの質」という考え方が非常に強い会社であると推測できます。
戦略に応じて翻訳のオプションも変わる
では、Apple のような、徹底的なマーケティングのセントラル主導がすべての企業にとっての最適なのでしょうか?決してそうではありません。
むしろ Apple は特殊な例に近く、すでに非常に強力な世界的ブランド力があるからこそ、ローカライズを重視しない強気な策に出ることができると言えます。
例えば、世界的に見ると、日本は昔から特に特殊な市場とされてきました。いわゆる「ガラパゴス化」と呼ばれる現象は、ローカライズにおいても例外でなく、日本へのマーケティングは他の国への展開よりもさらに工夫が必要とされてきました。そのため企業によってはローカルの市場を重視して、マーケティングコンテンツのローカライズに大きく予算を割く場合もあります。
つまり、徹底的なセントラル主導のマーケティングを行うか、ローカライズに重きをおいたマーケティングを行うか。この2パターンの戦略によって、翻訳の方針も大きく変わってくるのです。
グローバルマーケティング中心の場合
グローバルマーケティング中心(徹底的なセントラル主導のマーケティング)の場合、翻訳では次のような手法が中心となります。
- 元言語→多言語での共通コンテンツの一斉翻訳
- TMS(Translation Management System)を活用した翻訳のアジャイル化、機械翻訳の活用
(従来、アジャイル開発とはソフトウェア開発の手法を表すものでしたか、Webサイトコンテンツやソフトウェアに付随するマニュアルなどの翻訳でも取り入れられています)
メリットとしては、翻訳の元になる素材の量を最小化することで、ローカライズの予算を大幅にカットすることができ、スケジュールも一元管理が可能で工期も短縮され、大量のコンテンツを低予算で翻訳することができます。
その一方で、各国のコンテンツ所有者がローカライズに対する予算や権限を持たず、翻訳工程も一つの基準に基づいて設計されるため、地域に応じた柔軟な対応が難しかったり、言語による翻訳難易度の格差による品質のばらつきが発生したりするといった課題もあります。
ローカライズ重視の場合
グローバルマーケティング中心としない場合は、従来型のフローが中心となります。
- ターゲット言語の担当が独自に予算を持ち、翻訳するコンテンツを選ぶことができる
- 希望するアウトプットに応じて予算やスケジュールを管理
- 機械翻訳からTranscreationまで、幅広いオプションが選択できる
最大のメリットは翻訳対象のコンテンツの直接のオーナーが期待する結果を得やすいということです。
反面、高品質を目指す場合や、そもそも予算が少ない場合、コストとしては割高で大量のコンテンツを翻訳する場合は予算が折り合わない可能性があるといったデメリットがあります。
翻訳会社としての関わり方
多様化していくローカライゼーションに対して、我々翻訳会社も柔軟な対応が求められています。グローバルマーケティングに対する翻訳の「安く、早く」という流れは今後も広がっていくと思われますが、良い翻訳を生産し続けるという本質は変わることはありません。
今後もローカライゼーションはテクノロジーやビジネス戦略の変化に応じて様々なオプションが生まれていくことが予想されます。
何をどのような形で、誰に見てもらいたいのか、選択肢は様々ですがそれを認識することがローカライゼーションの最適化を目指す上での近道となります。
そして、それらのニーズに最大限に答える形で実現していくことが我々のミッションであり、目指すべき道であると考えています。
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