英日翻訳における「誤訳を招きやすい単語たち」パート2
川村インターナショナルで社内翻訳者として勤務している筆者は、業務上、ほかの翻訳者の方の訳文をチェックする機会が多くあります。いろいろな方の訳文に触れていると、誤訳しやすい単語やフレーズというものが見えてきます。そこで今回は、シリーズの第2弾として、誤訳を招きやすい単語を紹介したいと思います。第1弾はこちら。
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back up and running
back up and runningの解説の前に、まずはup and runningについて説明します。
up and runningはIT系の案件で目にすることの多い表現で、「(機械やシステムなどが)稼働している、稼働中」という意味です。例文を見てみましょう。
【例文】
The server is up and running. |
どうしてup and runningで「稼働している」という意味なの?と思われるかもしれませんが、upとrunningで分けて考えるとわかりやすいかもしれません。
上記のサーバーの例文に当てはめた場合、upは「サーバーが立ち上がっている状態」を意味します。サーバーが動いていない状態を「ダウンする」という言い方をしますが、「ダウンの逆」と言えばイメージしやすいのではないでしょうか。runningは、「サーバーが動作し続けている状態」を意味します。「サーバーが立ち上がって(up)動作し続けている状態(running)」、つまり「サーバーが稼働している」という意味になるわけです。
up and runningは翻訳者御用達の英辞郎にも「〔機器・システムなどが〕立ち上がって稼働して、作動して」と載っていますし、英英辞典にもまず間違いなく載っています。以下はCollins Dictionaryの説明です。
If something such as a system or place is up and running, it is operating normally.
「辞書に載っているのなら、誤訳する人なんていないんじゃないの?」と思った方もいるでしょうか。はい。そのとおりです。up and runningで誤訳をする人はそういません。問題はこれにbackがついてback up and runningになったときです。
back up and runningは、トラブル等で停止したシステムが再び動き出したときに使われる表現です。いくつか例文を挙げます。
【例文】
・Our server is down, so we need to get it back up and running. |
このようにup and runningの状態に「戻す」というイメージで、「復旧」や「再開」などの意味になります。
ところがこのback up and running、「バックアップして稼働状態にする」のようにback up=「バックアップ」と誤訳するパターンが非常に多くあります。up and runningは辞書で調べれば出てきますが、こちらはback + up and runningという構造なので辞書を引いても出てきません。そのため、up and runningという語句の存在を知らない人はback up+ runningという構造だと思ってしまうようです(ちなみにこのback upを「バックアップ」と訳すのは、文法の観点からも間違いであることがわかります)。しかも悲しいかな、無料のオンライン辞書の訳例でも「バックアップ」とされていることがあるのです(これが無料の恐ろしいところ……)。「バックアップ」と訳すと、文の流れとして合わないことが多いと思うので、そこで「もしかして、バックアップではないのかな?」と気づいてほしいところです。
:(コロン)
次はちょっと変わり種を。英語には「:(コロン)」という日本語にはない記号があります。「つまり」や「すなわち」のような意味で、コロンの後にもう少し詳しい説明や言い換えが追加されます。例を参考に、その訳し方を見ていきましょう。
【コロンの使用例】(良い訳例)
・There are four prefectures in Shikoku: Kagawa, Ehime, Kochi, and Tokushima. |
【コロンの使用例】(悪い訳例)
In this blog article, you will learn: |
日本語では、この場合は句点を使用するのが適切です(「本ブログの内容は、以下のとおりです。」)。たしかにこの場合、ここでコロンを使用しても読み手に誤解を与えることはありません。「誤訳」とまでは言えないでしょう。しかし、日本語の文章で考えた場合、やはりここにコロンを使うのは不自然です。たかがコロン、されどコロン。こういう記号ひとつとっても、「日本語として自然かな?」と考えて処理したいものです。
まとめ
実務でよく遭遇する誤訳と日本語として不自然な訳を1つずつご紹介しました。残念ながら翻訳に誤訳は付き物。ですが、単語やフレーズといった小さな単位での誤訳は、極力避けたいもの。このブログがひとつでも多くの誤訳の撲滅と、訳文のブラッシュアップに寄与できれば幸いです。
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