eディスカバリーとは?グローバル時代の日本企業が知っておきたい制度
21世紀に入ってからグローバル化がますます進み、経済や市場の動きは自国だけではなく、世界に大きく影響されるようになりました。世界のマーケットに向けて発信し、ビジネスができるのは非常に魅力的ですが、その分リスクが伴うことも事実です。
日本企業が現地で訴訟や規制当局の取り締まりの対象になるケースが増えています。米国で民事訴訟を起こされた場合、手続きの一つとしてeディスカバリー(電子証拠開示制度)への対応が必要になります。英語ではElectronic discovery、e-discoveryやediscoveryとも表記されますが、これは訴訟に関連するすべての資料(電子データやコンテンツ)を自ら収集し開示する制度です。
この記事では、eディスカバリー制度の概要に触れるとともに、翻訳会社が担う役割についてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.eディスカバリーのワークフロー
- 2.翻訳会社もリソースの一つ
- 2.1.言語テクノロジーの活用
- 2.2.プロセスの自動化
- 3.多種多様なファイルへの対応
- 4.セキュアな環境
- 5.まとめ
- 6.川村インターナショナルの翻訳サービス
eディスカバリーのワークフロー
eディスカバリーを行う際、EDRM(Electronic Discovery Reference Model:電子情報開示参考モデル)という世界標準のワークフローに沿って対応することが重要となります。
EDRMワークフロー(筆者作成)
具体的な流れは上の図のとおりですが、大きく4つのステージに分けることができます。
①情報管理・特定
証拠データを誰がどこに保管しているのかを把握し、特定した証拠保管者に文書消去防止を通知します。
②情報の保全・収集
データマッピングにより情報収集および整理を行い、データが改変または削除されないように保全します。
③情報の処理・分析
保全したデータから重複するものや不要なものを排除し、分析を行ったうえで開示すべきデータを確定します。
④レポート作成・提出
開示対象データを定められた仕様に沿って加工し、レポートの作成および提出を行います。
ここでいうデータとはOffice文書などのファイル類だけでなく、電子メールやチャットなどありとあらゆる電子データやコンテンツが含まれるため、会社として普段から適切にデータマネジメントを行うことが重要になります。ここまで読み進めて気が付いたかと思いますが、eディスカバリーでは法務的な作業だけでなく、IT系の対応も多く発生します。
また、対象となるデータは米国拠点のものに限定されず、日本国内で保管されているデータも対象になりえるため、日本語のデータを英語に翻訳する作業も発生してきます。
翻訳会社もリソースの一つ
eディスカバリーでは膨大なデータを迅速に処理することが求められるため、対応したシステムやツール、外部の専門家をうまく利用することがキーになります。
川村インターナショナルのような翻訳会社は「外部の専門家」として、前述した4つのステージのうち、主に②情報の保全・収集と③情報の処理・分析でサポートを行うことになります。ただ、どの翻訳会社でも対応可能かというと、決してそうではありません。大量のデータをあらゆるファイル形式において素早く翻訳するためには、対応できる技術力とノウハウを持ち合わせていることが必須です。
では、具体的にeディスカバリーの翻訳において、どんなことがポイントになるのでしょうか?川村インターナショナルで実際に行っている取り組みを例に説明したいと思います。
言語テクノロジーの活用
eディスカバリーで重要なのは、開示対象データを迅速に見極めて準備することです。一刻でも早く内容確認を行い、データを仕分ける必要があります。品質的には一から翻訳するのがベストですが、仕分け段階で求められるのは高品質な翻訳ではなく、内容が分かる翻訳です。
このプロセスに適しているのは「機械翻訳+ポストエディット(後編集)」の手法です。当社ではさまざまな機械翻訳エンジンをテストし、最も有効なものを選定したうえで専門リソースが機械翻訳の出力結果を編集しています。
また、データ活用も不可欠です。同時並行で翻訳内容をデータベース化し作業の生産性と効率アップを最大限図り、翻訳にかかる時間を大幅に削減しないことには求められるペースに追い付きません。
プロセスの自動化
eディスカバリーで扱うデータは何百万文字や数千ファイルといった気が遠くなる規模です。データの処理にはプロセスの自動化が欠かせません。
たとえば、電子メールのデータはそのまま機械翻訳処理がかけられないため、他のファイル形式に変換する必要があります。手動で対応していたら時間がかかりますし、ミスも発生するかもしれません。
ここで有効な方法の一つが、Microsoft Power Automateなどを使ったプロセスの自動化です。電子メールをhtmlなど別のファイル形式に変換する自動ワークフローの作成が可能です。
多種多様なファイルへの対応
手書きのメモや捺印した報告書をスキャンしたPDFやjpgファイルなどが提供される場合もあります。これらのスキャンデータは画像として認識され、そのままでは文字情報の読み込みができません。
そのため、OCR(光学文字認識)技術を活用し、機械的に文字起こしを行ってから機械翻訳の処理にかけます。当社では専任のエンジニアがデータ処理を行っていますが、どのようなファイルが提供されたとしても翻訳プロセスが中断することがないよう進めるのが重要です。
セキュアな環境
eディスカバリーでは、企業秘密であっても対象範囲であればデータやコンテンツを提出しなければなりません。当社では情報セキュリティに関する国際標準規格ISO27001(ISMS認証)を取得していますが、そのような重要データを取り扱うためのしっかりとしたセキュリティ体制が必要とされます。
まとめ
eディスカバリーとは、米国で民事訴訟を起こされた場合、訴訟に関連するすべての資料を自ら収集し開示する制度です。訴訟には多大な費用と時間が費やされますが、その中でもeディスカバリーの対応が大きな割合を占めると言われています。今後ますますビジネスがグローバル化するなか、日本企業にとってeディスカバリー対策が重要であり、備えておくべき課題であることに間違いありません。
出典:EDRM Model, EDRM
川村インターナショナルの翻訳サービス
川村インターナショナルは、長年にわたるIT、工業、医療、法律など各専門分野の翻訳実績があります。また、言語に特化したテクノロジー開発を行っております。
翻訳と言語テクノロジーの専門家として、eディスカバリーにおける翻訳プロセスをサポートいたします。機械翻訳を活用したポストエディット(後編集)サービス、翻訳関連のAI・データ活用サービスを提供している当社ならではのソリューションをご提案します。お気軽にお問い合わせください。
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