英日翻訳における略語の訳し方~”TKG”は翻訳対象か?
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さまざまな略語
NATO=North Atlantic Treaty Organization(北大西洋条約機構)、IT=Information Technology(情報技術)、I18N=Internationalization(国際化)、URL=Uniform Resource Locator(統一資源位置指定子)…。
翻訳の現場でも、日常生活と同様に多種多様な略語(abbreviation)に遭遇します。
上記では英語の略語を挙げましたが、これらのように辞書にも載っているようなメジャーな略語だけでなく、業界や分野ごとの専門用語、あるいは原文の対象となっている製品やアプリケーションだけで通じる略語も登場します。さらには、原文の作成者が思い付きで(!)何かしらの用語を略して書いてしまう場合もあります。実際、翻訳で発生するクエリーのうち略語に関連するものはかなりの割合を占めます(筆者の担当したプロジェクトで、20%程度が略語に関するクエリーだったこともあります)。
acronymとinitialism
翻訳に限らず、何らかの文章を読んでいると、略語の中でも、単語の頭文字を取って作られた造語=頭字語に頻繁に遭遇します。日本語では厳密には区別されませんが、英単語としてはacronym(頭字語)とinitialism(頭文字語)の2種類が存在します。冒頭で挙げた3つの頭字語を分類すると以下のようになります。
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NATO「ナトー」のように一つの単語として発音するものがacronym、IT「アイ・ティー」のようにアルファベットを繋げて読むものがinitialismです。とはいえ、英語でも総称してacronymがよく使われているようです。
中には、ASAP=As Soon As Possible(できるだけ早く)のように、「アサップ」と「エーエスエーピー」のどちらでも読める頭字語や、VAT=Value Added Tax(付加価値税)のように、アメリカ英語では主に「ヴァット」、イギリス英語では主に「ヴィエィティー」と読む頭字語もあります。
※余談ですが、この記事を執筆するにあたり、レーザー(LASER)がLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光増幅放射)の頭字語であることを初めて知りました…。
略語の翻訳で困ること
原文に略語、特に頭字語が出てきた場合、その翻訳で苦労するのはどのような点でしょうか?プロジェクトで発生した実際のクエリーからいくつかご紹介します。
①何の略語なのか分からない
シンプルかつ最も頻繁に発生するクエリーです。原文サイドに“What does this abbreviation stand for?”と質問すると、”It stands for…”と回答が返ってきますが、実はここからが問題です。略語の元の用語(フルテキスト)が判明しただけでは、それを訳出すべきなのか、それとも略語のままにしてほしいという原文サイドの意図があるのかで再度悩むことになります。
原文に”TKG”と出てきたら、「卵かけごはん」と訳出するのか、それとも読者が「TKG」を知っていると信じてそのまま訳文で使うのか(もちろん、そのような判断が適切な場合もあります)…悩ましいですね。また、略語から考えうる単語が複数あるようなケースもあります。例えば、原文に”Cust.”と出てきて、コンテキストから”Customer”なのか”Customization”なのか分からないような場合です。
意味不明の略語に関するクエリーを投稿する際には、フルテキストをターゲット言語で翻訳すべきなのかを併せて質問することをおススメします。
②略語の意味は分かるが、どう扱うべきか迷う
これは、メジャーではない(分野、業界、製品、サービスなど限定的に使用される)略語が出てきた際に発生するクエリーで、特にUI翻訳では多く見かけます。
ドキュメント翻訳の場合は(原文がどうであれ)、以下のように、略語が初めて登場したタイミングでフルテキストの翻訳を補足し、2回目以降では略語をそのまま訳文で使うことができます。
RAM(ランダムアクセスメモリ)について解説します。RAMはコンピューターで使用するメモリーの一種で… |
しかし、システムのインターフェース、画面などのUI翻訳の原文は、ごく短いセンテンス(1つまたは複数の単語だけ)の場合が多く、個々の原文がどのようにエンドユーザーに表示されるのかが翻訳の時点では不明なケースが多いため、すべての略語に一律にフルテキストの翻訳を補足するわけにはいきません。また、UI翻訳に付き物の文字長の制約があるため、そもそもエディター上で翻訳を補足できない場合もあります。
筆者の経験上、このようなケースでは(原文サイドに事前に確認できた場合を除くと)、翻訳時点ではひとまず原文にある略語をそのまま訳文でも使用し、後日、エンドユーザーが見る画面を確認するようなテストの機会があれば、必要に応じて一部の略語にフルテキストの翻訳を補足することになります。
③メジャーな略語と一致してしまうので訳文で使えない
原文に、”Customization Service for Suppliers”を意味する”CSS”という略語が出てきたとします。CSS=Cascading Style Sheets(カスケーディングスタイルシート)というメジャーな頭字語を知っている翻訳者であれば、訳文で”CSS”をそのまま使うかどうか迷うかもしれません。通常はコンテキストで判断できると思いますが、アルファベットを用いる言語ではその言語(国)特有の略語も存在しますので、略語がバッティングする可能性は日本語よりも高いかもしれませんね。
このような場合は、やはり原文サイドにクエリーを投稿して略語を変更してもらうか、フルテキストの翻訳を補足するなどの対応が必要になります。
略語を知ると世界が広がる
本記事では、翻訳の現場で遭遇するちょっぴり厄介な存在として、特に頭字語に注目しながら、略語についてご紹介しました。しかし、現代社会では略語と無縁では暮らしていけませんので、翻訳でも、それ以外のシーンでも、略語に関する情報をアップデートしていきたいと思います。
これまた余談ですが、冒頭でご紹介したNATOという頭字語、筆者は全世界で共通で使用されている言葉だと思っていたのですが、フランス語ではOTAN=Organisation du Traité de l'Atlantique Nordと表現するそうです。フランス語には他にも、英語とは異なる頭字語がいくつかあるようで、たかが略語、されど略語…奥が深いなあと感じた筆者でした。
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