英日翻訳者なら押さえておきたい 聖書由来のことばたち
翻訳をするうえで大切なのは、語学力だけではありません。言葉は、その国や地域の文化と深く結びついています。そのため翻訳者は、その国や地域の文化についても詳しくなければなりません。
そして、欧米の文化に深く根差しているのが、キリスト教。キリスト教が普及している国では、映画や小説、日常会話などで聖書由来の言葉や表現が使われることも多くあります。
あまり宗教意識が高くないといわれる日本人でも、「釈迦に説法」や「仏の顔も三度」といった仏教由来の表現が広く浸透していますが、これと同じように、キリスト教圏の人々にとって、聖書由来の言葉や表現は一般常識のひとつなのです。となれば当然、翻訳者にも聖書の知識が求められます。キリスト教圏の映画字幕や小説の翻訳者にとって、聖書の知識は大前提といっても過言ではありません。
そこで今回は、英語で一般的な聖書由来の表現をいくつかご紹介したいと思います。なお、今回のブログは聖書由来の英語表現を紹介することを目的としており、聖書について深く掘り下げるものではありません。そのため、聖書の言葉については、詳細な説明は省いていることを先にお断りしておきます。
Turn the other cheek
Turn the other cheekは、直訳すると「もう片方の頬を向ける」。「誰かに右の頬を叩かれたら、左の頬も差し出しなさい」というイエス・キリストの言葉に由来します。「暴力や侮辱を受けても、やり返すのではなく受け入れる」という意味です。日本語では、文脈に応じて、「侮辱(不当な扱い)を許す、甘んじて受ける」「仕返しをしない」「相手にしない」のように訳されます。
【例文】
多くの人が私を批判したが、私は相手にしなかった。 |
A good Samaritan
A good Samaritanは、「善きサマリア人」。この言葉は、イエス・キリストが説いたとされるたとえ話に由来します。強盗に襲われ重傷を負い、道端に置き去りにされていた見ず知らずの旅人を、通りかかったサマリア人が自己の不利益を顧みずに助けた、という逸話です。このことから、「善きサマリア人」は「苦しんでいる人や困っている人がいたら、たとえ見ず知らずの人間でも手を差し伸べる人」という意味で使われるようになりました。
「善きサマリア人」は、病院や福祉関係の施設の名前に使われることも多く、「事故や急病で命の危険にさらされている人を救う行動をとった場合、たとえその結果が失敗だったとしても責任は問わない」とする「善きサマリア人の法」という法律が存在する国もあります。
【例文】
車が溝に落ちてしまったが、通りがかりの親切な人が引き上げるのを手伝ってくれた。 |
Turn water into wine
直訳すると、「水をワインに変える」。親戚の結婚式に出席したイエス・キリストが、客用のワインが足りなくなったために水をワインに変える奇跡を起こした、というエピソードに由来します。文脈によっては「奇跡を起こす」や「何でもない物を価値ある物に変える」という意味で用いられることもありますが、文字通り「水をワインに変える」という意味で、ジョークで使われることも多いようです。パーティーでお酒が残り少なくなってきたときに、”Can somebody turn water into wine?”(誰か、水をワインに変えてくれない?)と言ってみてもいいかもしれません。
【例文】
彼は価値のない物を変身させる能力に長けていて、何もないところから大金持ちになった。 |
まとめ
英語で一般的な聖書由来の言葉をご紹介しました。今回紹介したものはほんの一部で、日常に浸透している聖書由来の言葉は数えきれないほどあります。日本語でもなじみのある「豚に真珠」や「目からウロコが落ちる」といった言葉も、実は聖書に由来しています。聖書の知識は、翻訳者としてはある程度必要なものですが、翻訳者でなくても、聖書を知っていると、映画や小説、歌詞に登場するセリフやフレーズの裏に隠された意味が分かり、楽しさも2倍になります。興味のある方はぜひ、聖書を読んでみてくださいね。
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