ITから産業翻訳へ~活かせるナレッジは無限大~
翻訳=文芸翻訳?
翻訳業界と関わりのない友人知人に「翻訳の仕事をしている」と言うと、十中八九「へ~!映画?小説?」というようなことを聞かれます。筆者自身も翻訳業界に転職するまでは「翻訳=文芸翻訳」という認識でしたので、これは無理からぬことです。ただ、最近はインバウンド需要の高まりと共に、このような認識も変わりつつあるように感じています。
今回の記事では、IT業界から転職した筆者の経験を元に、現在IT業界で働いている皆さんや、ITに近い分野の学生の皆さんに向けて、仕事としての産業翻訳(コンピューター、ソフトウェア/ハードウェア、通信、ネットワークなどのIT分野)について紹介したいと思います。実はIT関連のナレッジや経験をフルに活かすことができる産業翻訳の世界を、少しだけ覗いてみませんか?
ITから産業翻訳へ
IT業界で働いていた頃、英語(外国語)や翻訳というのは遠くて近い存在でした。同僚にはいわゆる理系出身者が多く、半分自虐的に「英語が苦手だから理系にした」という人も少なくありませんでした。その一方で、IT用語には英語そのもの、あるいは英語から派生したカタカナ言葉が溢れ、テクノロジー関連の仕様やプログラミングのTIPSをインターネットで検索するとヒットするのは英語のページばかり。Webの自動翻訳サービスの精度も今よりずっと低い時代でしたので、英語のスキルは高くないけれど、英語を使わないわけにもいかない…という状況でした。
筆者の場合はIT業界で9年ほど働いていました。後半は海外のSIerとの協業プロジェクトに携わっていたため、日々の業務で英語を使う機会が増えていき、いわゆるビジネス英語に非常に苦労しましたが、これが翻訳業界への転職を考えるきっかけとなりました。筆者は川村インターナショナルに入社して以降、IT関連の英日翻訳に携わっていますが、現在に至るまで、産業翻訳者として、IT業界での経験があってよかったと実感する場面が沢山あります。
もちろん、それぞれの分野の翻訳には分野ごとの知識が必要です。たとえば、医療系の翻訳には医療の知識、自動車関連の翻訳には自動車産業にまつわる知識が欠かせません。関連する業界で実際に働いた経験があれば、それは間違いなく翻訳者の強みになります。加えて、IT業界での経験が少し特殊なのは、近年、産業翻訳のプラットフォームそのもののIT化が進み、どの分野の翻訳をする場合でも、ITに関する知識や経験がプラスに働くという点だと思います。
具体的に、IT出身の翻訳者の強みとなる点を挙げてみます。
IT出身者の強み① IT用語をよく知っている
IT分野のUI(英日)翻訳でFarmという単語が単独で登場した場合、IT出身者であれば、「これは Firm のタイポ(原文エラー)では?」 と確認することができます。もちろんコンテキストによりますが、申し送りもせず「農場」と翻訳することはまずないと思います。まさか…と思うような誤訳ですが、これは実際にあった翻訳エラーの例です。また、平文の途中にSQL(エスキューエル―データベース言語の一種)の予約語がポッと登場したりするので、これを普通の単語として翻訳してしまうと誤訳になります。IT分野の頻出用語を当たり前のように、つまり、調査に時間をかけず短時間で翻訳できることは、翻訳する量が多いほど強みとなります。
IT出身者の強み② 厄介な原文から文脈をイメージできる
翻訳対象の文章(原文)は時にシンプルすぎて(または複雑すぎて)、一回読んだだけでは文脈が分からないこともしばしばあります。特にマニュアルやガイダンスに関連する翻訳の場合、多少クセのある原文であっても、自分の経験と照らし合わせて操作手順や文脈をイメージしながら作業することで、よりよい翻訳をアウトプットすることができます。
IT出身者の強み③ プログラム(コード)の見方が分かる
原文にプログラムのコードがそのまま登場することもあります。その前後の文章と関連している場合が多いため、プログラムのコードを読むことができると、原文全体として文脈を正しく理解するのに役立ちます(まれに、コードのバグに気づいたりもします)。
IT出身者の強み④ 翻訳に必要な環境/ツールの導入や新しい技術知識の獲得に抵抗がない
産業翻訳の世界は日々進化しているため、翻訳で使う環境や翻訳支援ツールが変わることも頻繁にあります。産業翻訳者としては、これらの変化に躊躇することは翻訳のアサインメントが減っていくことを意味します。同様に、取り組んでいる翻訳とは直接関係のない情報であっても、最新技術に関心を持つ姿勢も重要です。その点、IT出身者は新しい技術や情報に対してアーリーアダプターである傾向が強いので、新しい環境やツールに対して積極的で新しい技術の情報に敏感な点も強みだと思います。
IT出身者の強み⑤ 翻訳そのものにプログラミング的な面白さがある
これは翻訳者として仕事を始めた頃に筆者が感じたことであり、文芸翻訳にはない面白さだと考えています。産業翻訳、特に、誰が翻訳しても同じアウトプットになることが求められる種類の翻訳(UI翻訳、マニュアル翻訳など)では、用語集、スタイルガイド、指示書、参考資料などが案件ごとに細かく規定されます。参照先にある様々な情報を組み合わせて一つの翻訳(正解)を導き出す…なんだかプログラミングの醍醐味と似ていると思いませんか?
また(これはメリットではありませんが…)、翻訳の分量が多くて納期とのせめぎ合いになると、ここぞというときは体力勝負となる点もIT業界と似ていると感じています。
産業翻訳におけるIT分野
産業翻訳にはIT分野のほかに、機械、医薬、金融、法務、特許などの専門分野がありますが、中でもIT分野は技術分野と並んで最大の翻訳需要となっています。今後もこの傾向は変わらないと言われており、翻訳会社各社は優秀な産業翻訳者を常に探し求めています。
余談ですが、筆者自身、転職の際には「在宅勤務が可能」という点も翻訳業界に転身する決め手になりました。在宅勤務をはじめ柔軟な働き方ができるのも翻訳業界の魅力の一つだと思います。
以上、個人的な経験に基づいてご紹介しました。この記事が、IT業界で働いている(学んでいる)皆さんが翻訳業界に興味を持つきっかけとなれば幸いです。
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