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機械翻訳活用時に必要な視点

【対談】機械翻訳活用時に必要な視点⑧ 機械翻訳活用に欠かせない視点

人手の翻訳でできることと機械にできることの違いをよく理解し、分野や用途に応じて柔軟に機械を活用することが望ましいが、その判断のポイントについて、エヌ・アイ・ティー株式会社の代表取締役社長、新田順也さんと意見交換をさせていただいた。


目次 (前半1~6はこちら

  7. プリエディットについて(具体例①)
  8. プリエディットについて(具体例②)
  9. 機械翻訳活用に欠かせない視点(最後に)


機械翻訳活用に欠かせない視点

新田:
御社の研究発表(2019年TCシンポジウム:日英機械翻訳前のプリエディットに関するブログ記事
)を見たのですが、「句点を入れる」というのはすごく面白いですね。英日翻訳で同じ考え方を試したところうまくいきましたよ。あれでいい訳が返ってきますよね。

森口:
そうです。機械との付き合い方をなんとなく発見したみたいな感じですよね。

新田:
そうなんです。あの区切り方もセンスが必要というか、それは意味で区切っているので、やはり原文を読めないと区切れないというのは当たり前ですよね。このような原文を修正することをやっちゃいけないという議論自体が私はナンセンスだと思っていて、翻訳者はそもそも頭の中でやっているんです。


森口:
それを目に見える形にしただけだということですよね。


新田:
そうです。日英翻訳では、主語が抜けていたら前のほうから主語を選んで入れているわけです。英日、日英どちらにせよ情報は補って翻訳しているのだから、別に原文に明示的に書こうが書くまいが、もしくは句点を入れようが入れまいがいいんだと私は思っています。それを画一的に「そこを自動化できませんか」と聞かれることがあるのですが、「できません」と答えています。そこは翻訳者の役割だと思います。


森口:
そうですね。しかし、機械翻訳にかける際の入出力は、本人が分割したいところで分割して、入力できるようにするのは、ソフトウェア側で十分にできることですね。


新田:
そうです。そういうところにテクノロジーをしっかり組み合わせることによって、機械翻訳がより使いやすくなっていきますよね。私はそこがいちばん楽しいところ、あるべきところなのかなと思います。


森口:
私もそう思います。それを積み重ねていって行けばいいですよね。機械翻訳エンジンが返す翻訳の質はどんどん向上してゆくと思いますが、すべての書式や分野に対しては良くはないので、教師データが分野別にあるとより良い質に近づいてゆくと思います。

人の翻訳はなくならないと思っていますが、機械翻訳の品質でOKの場合もあるし、ポストエディットを加えて一定のレベルの質を出すこともできるので、いままでなかった市場が新たな市場になったと感じています。従来では予算もつけられなくて、お客さんも何もできなかったところに、別の選択肢が増えたということですね。そういう方向に発想の火を灯して行きたいですね。

新田:
それはいいですね。私が翻訳会社さんに希望するのは、やはり人手翻訳でなければならないところがあって、それだけのコストがかかるということをソースクライアントに理解してもらうように働きかけていただきたいということです。我々翻訳者が気にしているのは、機械翻訳のコストダウンに引きずられるようにして人手翻訳がどんどん下がってしまうとやはりつらくなってきます。


森口:
そうですね、むしろ人が足りないのですから上げなくてはいけないですね(笑)。


新田:
そうです、上げてもいい(笑)。上げられるのであれば上げたいし、そこにはいい翻訳者がついていくと思います。いま、高い値段で翻訳されている方のお客様というのは、機械翻訳で安くするという発想がないし、いいものを出してほしいと言ってお金を払ってくれます。そういうお客様はやはりいます。


森口:
高くてもいいからというお客様もいます。だけど、「400ページを明日までに何と訳したい」といった場合、通常これは機械翻訳でしか処理できないのですが、特定の機械翻訳エンジンがその企業内で禁止されている場合などでは、解決策を求めているケースが多いですから、いろいろな困りごとに合わせて提案をしていきます。


新田:
そうですね。森口さんがおっしゃるように、いろんな困りごとへの解決策の提案ですよね。そういったソースクライアントとの対話というものも興味のあるテーマです。私は企業の知財部や特許事務所の方など自分のお客様に対して、直接お話ができる立場にいます。非常に恵まれていると思います。

しかし多くの翻訳者の方々はソースクライアントとお話する機会がほとんどなかったり、あったとしても伝えたいことを伝えにくいと思うので、それがストレスになっているかもしれません。

ソースクライアントには翻訳会社さんのほうが伝えやすいと思いますので、人間ができることと機械翻訳ができるところの区別についての対話があればいいなとと思いますし、翻訳者も機械翻訳ができることとできないことを具体的な案件レベルで自分の尺度で評価していく必要もあると思います。

法律事務所も特許事務所も急に機械翻訳を導入し始めているようです。いずれ「あ、できないことがここまであるんだ」ということに気付くはずだと私は思っています。ある程度一巡したら、もう少し冷静に機械翻訳の品質や癖を評価できて、やっぱり人手翻訳だよねとか機械翻訳と別のツールとの組み合わせないとね、なんて考えるようになると思います。それまでは「安く、安く」と圧力があるのではないでしょうか。

ですから、そういう意味ではお客さんとお話ができる翻訳会社さんに頑張ってもらって。

森口:
そういう翻訳会社になってくださいということですね。


新田:
はい、そういうことです。


森口:
そうですよね(笑)。そうありたいと思っています。


【インタビュアー】森口功造

【インタビュアー】森口功造

株式会社川村インターナショナル代表取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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【本日のゲスト】新田順也(にったじゅんや)
エヌ・アイ・ティー株式会社

Wordアドイン開発者、翻訳者、セミナー講師。大阪大学工学部環境工学科卒。カリフォルニア大学バークレー校工学部土木環境工学科修士。エンジニアリング会社と特許事務所を経て独立。翻訳会社やマニュアル制作会社、特許事務所等に、Wordの設定やWordマクロ活用のコンサルティングやセミナーを実施。また、繰り返し作業を自動化するためのWordのチューニング方法など、独自視点のWord活用法をブログで紹介。最近は、ニューラル機械翻訳支援ツールの開発や法人向けの機械翻訳導入の支援を実施。Microsoftが優れた技術者に授与するMicrosoft MVPをWord部門で2011年以降、毎年受賞。代表ソフトは、Wordで動く翻訳チェックソフト「色deチェック」とニューラル機械翻訳支援ツール「GreenT」。

ブログ「みんなのワードマクロ」(http://www.wordvbalab.com


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