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機械翻訳活用時に必要な視点

【対談】機械翻訳活用時に必要な視点⑥機械による支援が正しい形

人手の翻訳でできることと機械にできることの違いをよく理解し、分野や用途に応じて柔軟に機械を活用することが望ましいが、その判断のポイントについて、エヌ・アイ・ティー株式会社の代表取締役社長、新田順也さんと意見交換をさせていただいた。


目次

  1. 機械翻訳でできることとできないこと
  2. 機械翻訳の利用には柔軟な選択肢が必要
  3. 顧客のニーズの重要性
  4. 誰がやるべきか
  5. 機械翻訳との付き合い方
  6. 機械による支援が正しい形

機械による支援が正しい形

森口:
機械ができることは、機械翻訳だけではありません。新田さんが提供しているGreenTだと、例えば文末表現を直したらどうかと注意喚起が出たり、ツール側でユーザーを支援する機能みたいなものもあります。世の中ではデジタルトランスフォーメーションが盛んに謳われていて、「ヒトではなく、機械を走らせる」という表現も耳にします。AIはその変革の一部を構成しているだけです。

機械をどうやって活用すると人間がいままでマニュアルでやっていた作業が楽になるのか、そういう議論をそっちのけで、機械翻訳の話だけしているのはちょっと違和感を覚えます。

ですから、新田さんのツールというのは、新田さんが使いやすいように作ったらそうなったという話なのかもしれませんが、そのあたりが実は明確になっていますよね。このツールを使うと自分では気がつかないようなことが注意喚起されたりするので機械との付き合い方がわかるというか。

新田:
そうですね。私が機械翻訳を利用する立場で自動化できたらいいなと思うことをツールで補っています。翻訳者としては自分の用語集を反映させた訳文を作りたいですよね。
さらに、今言っていただいたような原文をこう修正したらいいとか、訳文をこう修正したらいいとかっていうのが表示されるのも、機械と人間とのちょうどいい関係性なのかなと思って開発をしています。

人間が最終判断するんです。機械はあくまでも提案だけ。勝手に修正させない!というか(笑)。ネジをギュッギュッと締めてみたり、緩めてみたりというようなわかりやすい操作で、機械翻訳の性能のチューニングができるようになるともっと使いやすくなると思います。

森口:
ツールの使い方も選択肢ですよね。一度直した用語はもう自動で直してくれとか、そういう機能もあるんですよね。


新田:
そうです。そういう機能がGreenTの中にありますね。Wordにある「オートコレクト」のような機能なんです。機械翻訳を使うときに、そういう自動修正ができるようになると、ちょっとしたことなんですけど、使いやすくなるんです。些末な作業がなくなって、もう少し翻訳全体に気を配ることができるようになります。


森口:
なるほど。それで質も上げることができて、自分の作業効率も良くなってというのであればいちばんいいですよね。


新田:
でも、自分でやっていて思うのは、翻訳がものすごく速くなるっていうのは分野によるなと思います。私が機械翻訳万々歳にならないのは、このGreenTをかなりの時間をかけて開発して、面白いと思ってやっているのですが、こんなに頑張っているのに(笑)、倍のスピードにできるかというと分野や用途によっては全然なりません。

このことは開発者として正直にユーザーさんには言っています。GreenTを使うと機械翻訳の出力をユーザーさんの求める品質に近づけられるのであればGreenTは便利なツールだということになるんだけれども、格調高い文章を書くとか、ソースクライアントが求める特定の文体で書くなどの用途には合いませんから、それはしょうがないと思っています。

私だってこんなに一生懸命に自分の効率化のための開発しているのにこの程度ですよと伝えていますけどね。もちろん用途によってはすごく速くなることもあるのですが。

いずれにしても、原文を理解するための時間ってそもそも必要です。それは機械翻訳を使っても減らないんですよ。だから、簡単な内容の文章をラフに翻訳する場合にはすごく速く訳せることがあります。それは当然です。

森口:
基本的に機械翻訳と人手の翻訳は全然違うし、ポストエディットしたとしても違います。私もだいぶん前から人手の翻訳は絶対なくなりませんと言っています。それは別に翻訳者さんに嫌われたくなくて言っているわけではなくて、違うものだから絶対になくならないんです。

プロセスも違うし、ニーズもちがうし、現時点の機械翻訳を活用している限りでは品質も違うはずです。そこに近づける努力というのはどちらかというと商品開発的なもので、いまはないサービスなんです。

そのサービスに近づけるためにどういうしたらいいのかという研究はすべきだと思っていますが、基本的には現状は違うと思っています。それよりも、むしろ機械翻訳ではなく、もっと人がやらないほうがいいことを機械にどうやったらやらせられるかと、その中の1つが機械翻訳なだけですね。

ちょっとだけ目の向け方を変えたいです。自分がもっと効率よく作業をするためにはどうしたらいいかと。機械翻訳の精度を上げるのか、検証機能を増やすとか、検証自体を機械にさせるとか。

新田:
そこはすごく共感します。機械翻訳を導入したからといって安くなるという次元ではほとんどありませんから。
どういうふうに使うかという工夫はしなければいけないと思っています。翻訳者もどういうところで使ったらいいのかなという研究はしたほうがいいと思います。

翻訳会社も、これを翻訳者に与えたときにどういうふうに気持ち良く使えるのか、その翻訳会社と翻訳者の役割分担とか、要はここで調べものが楽になるようにするとか、資料提供とか、用語集の提供とか、何かしらのものがあったときに初めて機械翻訳の導入で価値が出せるんだと思います。

ほかにも、機械翻訳の品質の判断基準が確立されているとか、それはお客様とのやり取りとかかもしれませんが、そこは努力をするべきだと思います。

先ほど森口さんがおっしゃったように、ソースクライアントのニーズに合わせた翻訳を提供するという課題があって、その解決手段の1つとして機械翻訳がたまたまあっただけで、機械翻訳だけで課題を解決しなければならないというわけではありません。

ほかのツールとの組み合わせも大切だと思います。機械翻訳の前にあるいは後に何かしらの自動化ツールがあったりとか、用語を調べるための自動化ツールとか、関連の資料を一気に調べ上げるような自動化ツールとか、いろいろあり得ると思います。

⑦に続く

【インタビュアー】森口功造

【インタビュアー】森口功造

株式会社川村インターナショナル代表取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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【本日のゲスト】新田順也(にったじゅんや)
エヌ・アイ・ティー株式会社

Wordアドイン開発者、翻訳者、セミナー講師。大阪大学工学部環境工学科卒。カリフォルニア大学バークレー校工学部土木環境工学科修士。エンジニアリング会社と特許事務所を経て独立。翻訳会社やマニュアル制作会社、特許事務所等に、Wordの設定やWordマクロ活用のコンサルティングやセミナーを実施。また、繰り返し作業を自動化するためのWordのチューニング方法など、独自視点のWord活用法をブログで紹介。最近は、ニューラル機械翻訳支援ツールの開発や法人向けの機械翻訳導入の支援を実施。Microsoftが優れた技術者に授与するMicrosoft MVPをWord部門で2011年以降、毎年受賞。代表ソフトは、Wordで動く翻訳チェックソフト「色deチェック」とニューラル機械翻訳支援ツール「GreenT」。

ブログ「みんなのワードマクロ」(http://www.wordvbalab.com


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