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機械翻訳活用時に必要な視点

【対談】機械翻訳活用時に必要な視点②機械翻訳の利用には柔軟な選択肢が必要

人手の翻訳でできることと機械にできることの違いをよく理解し、分野や用途に応じて柔軟に機械を活用することが望ましいが、その判断のポイントについて、エヌ・アイ・ティー株式会社の代表取締役社長、新田順也さんと意見交換をさせていただいた。


目次

  1. 機械翻訳でできることとできないこと

  2. 機械翻訳の利用には柔軟な選択肢が必要

  3. 顧客のニーズの重要性

  4. 誰がやるべきか

  5. 機械翻訳との付き合い方

  6. 機械による支援が正しい形


機械翻訳の利用には柔軟な選択肢が必要

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森口:
機械翻訳を活用するビジネス環境は思った以上に複雑ですよね。単価や納期などの面でも圧力は生まれます。そういう環境ですから、機械翻訳の精度についての議論が広がってくるのは極めて自然です。

今、職業専門家としての翻訳者の皆さんは、いろいろなモヤモヤをいま抱えながら機械翻訳と向き合っているわけですよね。一方で、機械翻訳を企業内で利用しているユーザーの場合は、翻訳者という職業専門家でないことも多いでしょうし、「機械翻訳だからこれぐらいの質」というのを頭に想定しながら、でも安くて、速いからという理由で利用されているわけです。

新田:
いま、機械翻訳を活用する場合に、まだその利用方法の選択肢があまりない感じがします。さらに、機械翻訳の活用方法は研究途上にあると思っていて、活用方法を知る人と知らない人との格差がすでにできていると感じています。そのため、「ポストエディット」と言ったときに、想定している翻訳手法や品質は人により異なるように思うのです。

CATツールを使用していれば、機械翻訳とのコネクターやプラグインを利用すると、訳文の候補として機械翻訳の訳文がCATツール上に表示されるというところまできました。いままでもCATツールを使っていて便利に感じていた人たちにとっては、機械翻訳が出力した訳文という選択肢が増えたとも言えます。

機械翻訳の出力結果を使ってもいいし、使わなくてもいいし、翻訳メモリ(Translation Memory: TM)だけを利用してもいいし、自分で一から訳文を手入力してもいいし。と、けっこうフレキシブルに導入できると思います。今まで使用していたCATツールに組み合わせて機械翻訳を使うのは自然な流れでいいと思うのです。

発注形態によっても異なりますが、たとえば100ページ以上に及ぶようなパワーポイントの資料やWord文書が全文機械翻訳にかけられて提供されて、直す作業をしてほしいと言われた翻訳者は苦痛だろうなと想像します。

いままで使っていたツールも使えないし、翻訳者がためてきたノウハウや用語集、翻訳メモリ、調査のツール、文字入力の支援ツールなど一切使用できなくて、丸腰で勝負しなくてはいけないかもしれないんです。しかも安い単価を提示された割に、時間もかかるしということです。こういう仕事もあるようです。

この際に求められる品質は案件によるので一概に言えませんが、翻訳者に高いスキルを要求しているのに「ポストエディット」というだけで単価が下げられてしまうこともあるようです。このように、翻訳者の機械翻訳への反発にはいろいろな理由があると思っています。

森口:
なるほど、確かにそうですね、機械翻訳を使ってポストエディットをすることに対して先行していたのは比較的欧米の外資系企業が多くて、そういう大企業は昔からCATツールを積極的に使っています。メモリを共有しながら旧版からの流用などを効率化させて、質をある程度に安定化させます。翻訳メモリを再利用することで費用対効果を向上させるというところがその人たちはテーマになっているのではないでしょうか。

そういう企業がCATツールを導入するときと同じように機械翻訳を導入し始めているので、翻訳会社には通常の翻訳の〇〇%で作業をしてくれといった感じの依頼が来たりします。CATツール導入のときもメモリのマッチ率に応じて傾斜単価がかかるのですが、CATツール黎明期はみんな腑に落ちない状態でとりあえず作業していたと聞いています。

今では割とCATツールが当たり前に使われる時代になってきたので、機械翻訳についても時間が解決すると感じている人もいます。それでも、作業を強いられるのはやはり反発を招くと思います。

新田:
そうですね。精神的なつらさ、肉体的な作業としてのつらさもありますが、「修正だけなんだからそれ、簡単でしょ?」みたいな感じでなんだかすごくバカにされているみたいに感じてしまうし、作業単価が下がることもあるので、いろいろな要因があってモチベーションが下がるということはあると思います。

機械翻訳というのはせっかくの素敵なツールなんだけど、「実際にコストダウンできたのは翻訳者が頑張ってすごく安い単価で働いたから」なんてことがあるんじゃないのかと勘ぐってしまいます。

こういう場合に、機械翻訳のおかげで安くなりました、もしくは「なります」というふうに言って翻訳会社が営業してしまうと、翻訳者は不幸になるし、適当な翻訳で納品する人が出てきてしまうと思います。プロフェッショナリズムといいますか、職業倫理はこういう形で崩壊すると思います

これまでやりがいや心意気で守ってきた品質ってあると思うのです。でも、お客様との信頼関係が崩れたときには「この金額ならこんなもんでしょう」となってもおかしくないと思います。そのときには、今度はソースクライアントも翻訳会社も痛い目に遭うでしょうし、お互いに嬉しくないはずです。

森口:
そうですね。我々のような翻訳会社が邪魔をしているのかもしれませんね。とりあえず要求品質もわからず受注して、それを作業者に理解しないまま「できますか」と聞いてやらせてしまうとやっぱりまずいと思います。


新田:
たぶん翻訳会社の機械翻訳への理解も重要だし、実際に対応した後にどうソースクライアントと話をしたかという経験の差がこの理解度の差を生んでいるように思います。私もいろいろな翻訳会社さんと話をしていますが、理解をされているところはやはり営業の方やコーディネータの方がソースクライアントや登録翻訳者とこまかく話をされていますね。

こういう翻訳会社さんは文書の種類によってポストエディットの向き不向きがあるということを知っているので、最初からポストエディットを断るとか、やはりステップを踏まれています。

「ソースクライアントのニーズがあるから」という理由だけで、「だから機械翻訳を」とか「コスト削減の圧力があるので機械翻訳を」としてしまうと、やっぱり間違えると思います。ソースクライアントにできるところとできないところを伝えないと、大変だなという感じはしますね。

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③に続く

【インタビュアー】森口功造

【インタビュアー】森口功造

株式会社川村インターナショナル代表取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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