翻訳・機械翻訳・ポストエディットなど翻訳に関連する情報を発信
翻訳の日

「翻訳の日」

はじめに

ここ6~7年、翻訳業界の認知度向上のため、9月30日の「翻訳の日」をアピールできないかと漠然と考えていました。数年前、一般社団法人日本翻訳連盟(以下連盟)の元理事の方と食事をしたときに、「翻訳の日」の話題が出て、「9月30日に翻訳の日をアピールする新聞広告を出したいね」と話していました。その後、残念ながら日々の忙しさに紛れて何のアクションも取れずに時が流れてしまいました。

ところが、連盟が今年の5月に「日本記念日協会」に9月30日を「翻訳の日」として登録し、連盟として日刊工業新聞に「翻訳の日」に関する一面広告を出すということが決まりました。

そもそも「翻訳の日」とは、1953年にパリで設立された国際翻訳家連盟 (Fédération International des Traducteurs = FIT)が、翻訳の守護神である聖ジェロームの祝日9月30日を「世界翻訳の日」と決めたのが始まりです。さらに、2017年には国連総会で専門の翻訳者の果たす役割を重視する決議が採択され、9月30日が「国際翻訳デー(International Translation Day)」として公式に認定されました。


「翻訳祭」と「翻訳の日」の思い出

連盟が30年近く前に、9月30日の「世界翻訳の日」の記念イベントを開催し、これが現在の「翻訳祭」として発展したことをご存じでしょうか。その時のパンフレットのコピーを連盟の事務局からいただいたので、一部掲載します。この時はNHKが取材にきたそうですが、イベントの内容を読むと、今の「翻訳祭」とは大きく異なっています。ここまで来たのは、各翻訳祭の実行委員の皆さまと事務局の努力のお陰ですが、来年には「翻訳際」も30回目を迎えます。1回目のイベント開催時の翻訳業界と、機械翻訳の精度が劇的に向上しテクノロジーの変化が激しい今日の翻訳業界との違いは想像を絶するものがあります。


出典:一般社団法人日本翻訳連盟


私が「翻訳の日」について最初に知ったのは、翻訳連盟に入会後間もなく(25年以上前)、当時の連盟会長と翻訳者のKさんがFITの大会に参加されたときでした。FITが9月30日を「世界翻訳の日」と決めたこと、聖ジェロームがヒエロニムスという聖職者で、聖書のラテン語の翻訳者として知られている人であることをこの時初めて知りました。この大会でKさんが「頭からの翻訳法」に関する論文をフランス語で発表しました。最近、FITに関する思い出話を連盟事務局の方としていて、Kさんは日本語では訥々と話すのにフランス語では流暢に話されたそうですよ、という話を聞き、なつかしく昔を思い出しました。


翻訳業界の認知度

翻訳業界の認知度は決して高くありません。翻訳業というのは日本標準産業分類にも独立した業種としては掲載されていません。翻訳が独立した産業として分類されていないのをいつも悔しく思っています。

翻訳業界の認知度の低さには様々な理由がありますが、大きな理由は、大企業が少なく零細企業が多い業界で力がないこと、そして翻訳は語学ができる人なら誰でもできるという思いこみもその理由の一つかもしれません。

企業規模でいえば、世界トップの翻訳会社でも売り上げは1兆円以下で、売上が1億未満の企業がほとんどです。かつては、翻訳業界はCottage Industryと言われていました。機械翻訳の品質向上に伴い、技術力が必要となっているため状況は少しずつ変わってきてはいますが、それでもまだまだです。

翻訳者に関しては、現在ではITスキルなしにはもはや翻訳ができなくなっているため、プロの翻訳者に対する要求が格段と複雑になってきています。今後、翻訳の品質以外にも、プロの翻訳者と素人の差がよりはっきりしてくるでしょう。


翻訳業界の役割と今後

2017年に国連総会が国際翻訳デーを公式に認定した際に、「『国どうしを結び、平和と理解、発展を育むうえで専門の翻訳者が果たす役割』を重視する」という決議が採択されました。弊社のような産業翻訳に従事している会社も、国同士を結び、相互理解と発展のために貢献していますし、翻訳者も一人ひとりの力は小さくても、大きな役割を果たしています。

翻訳業界は、今まで様々な課題を抱えてきました。最終的には人の力が加わる翻訳には常に品質の問題がつきまとい、読み手の好みの問題もあり、一筋縄ではいきません。ただし、最近では品質問題の解決にテクノロジーが果たす役割も大きくなってきているのは明るい話題です。

どの業界でもそうですが、翻訳業界もテクノロジーがもたらす変化を組み込み、生き残りに必死です。その中で、「翻訳の日」を広く知っていただき、少しでも翻訳というビジネスを理解していただくことにより、翻訳者の地位と翻訳業界の認知度向上が業界全体の発展につながることを願ってやみません。


株式会社川村インターナショナル
代表取締役 川村みどり

​​​​​​​

川村みどり

川村みどり

株式会社川村インターナショナル 代表取締役会長 慶應義塾大学卒、米国留学、コンピュータ商社勤務後、1986年(株)川村インターナショナル創業。1990年代に航空機関連の翻訳を開始、その後IT分野の翻訳に参入。2008年ドイツSAP社認定パートナーに選定され、同時期に外部専門家指導のもとで品質改善活動を開始。2011年品質管理システムに関し東京都「経営革新計画」承認取得、2009年ドイツSAP社Partner of the Year受賞。2013年ISMS(ISO27001)、2016年ISO17100認証取得、2018年「みんなの自動翻訳@KI(商用版)」が世界発信コンペティション特別賞を受賞。 元(一社)日本翻訳連盟理事、元AAMT(アジア太平洋機械翻訳協会)監事

この記事がお役に立ったらシェアをお願いします!

ホワイトペーパーはこちら


人気のダウンロード資料

タグ

JSAマーク
ISO17100
JSAT 007

認証範囲:
金融・経済・法務、IT、医療・医薬、電気 ・機械、航空宇宙分野の技術翻訳サービス 及びソフトウェアローカリゼーション (英日、日英)
SGS_ISO-IEC_27001_with_ISMS-AC
※当社では、ISO17100に準拠した翻訳サービスを提供可能です。
準拠サービスをご希望の場合は、ご依頼時にお申し付けください。