企業で翻訳に携われる方々にとって「用語集」は非常に関心の高いテーマです。
こうしたニーズに応えるべく「用語集の利活用」をテーマにして連載記事をお届けしています。今回はその第三弾です。
第一弾、第二弾は次からお読みいただけます。
・第一弾:翻訳における用語集の利活用①
・第二弾:翻訳における用語集の利活用②バイリンガル用語集を自動的に作成する方法?
用語集管理がうまく回らない?意識したい3つの大方針
「せっかく用語集を作成したのに、うまく活用ができていない。」
当社でも、お客様からよくこのような声をお寄せいただきます。それぞれの企業様が抱える背景によって異なりますが、用語集をうまく活用できない理由はいくつか考えられます。
一つ目は用語集の情報項目の不備です。
せっかく用語集を作成しても、必要な情報が付与されていないと正しく利用できないことがあります。
また、ファイルの形式も重要です。Excelは一見管理をしやすいですが、複数人でコラボレーションする際に、ルール決めが必要になります。
このように、用語集を構築するにあたっては、書式やデータ形式、情報項目などの基本的な方針をしっかりと策定する必要があります。
二つ目は、用語集の運用方針が不明瞭であることです。
用語集が部門ごとに作成されている場合の用語準拠の優先順位や、参考資料として提供している情報との競合があった場合の処理方法など、運用の際には事前に決めておくべき項目がいくつかあります。
三つめは管理方針です。
用語集のライフサイクルを正しく管理しないと、いつ・誰が・何のために作成/変更した用語なのかがわからなくなります。また、用語集は日々更新されてゆくものですが、役割分担が明確になっていないと、何年も前に作成された用語集が古いまま使用され続ける可能性があるというデメリットもあります。
<決めておきたい3つの大方針>
- 用語集構築時の基本方針
- 用語集の運用方針
- 用語ライフサイクルの管理方針
こうした3つの大方針を事前に決めておくと、用語集管理の基盤がとても強固なものになります。
本連載は、この3つの方針に関するノウハウを共有することを目的としています。
今回は、連載の第三弾として、一つ目の大方針「用語集構築時の基本方針」に関連する「用語集データ管理ツールの選択」について掘り下げます。
用語集管理ツールの選択
「用語集を作成しよう」となったときに、絶対に決めておきたいことがあります。それは、入れ物としての用語集の仕様と、中身としての情報項目の範囲です。
- 用語集データ管理ツールの選択
- 用語集に含まれる情報項目
- 用語集に含まれる対象エントリの範囲
今回は、入れ物としての用語集データ管理ツールの選び方について紹介します。2.と3.については、次回以降に情報共有します。
まず、手っ取り早く用語集を作成するには、Excelがおすすめです。
Excelは幅広い層のユーザーが編集することができ、他の書式のファイルに変換することもしやすいので英語と日本語の二か国語の用語集を作成するなど、小規模のプロジェクトには向いています。
一方で、編集者が複数名いる場合には、SharePointなどをうまく活用しないと、版の管理が煩雑になります。さらに用語集の情報項目が増えると、視認性/検索性がかなり落ちるため、作業をする人のミスを誘発する恐れがあります。また、多言語翻訳で使用できるような1対Nの用語集を構築しようとすると、リレーションの設計と維持管理に対応しきれなくなるというデメリットがあります。
こういった場合、次に考えられるのは、AccessやFileMakerなどのデータベースの活用ですが、すべてのユーザーが同じOSやアプリケーションを使用しているわけではない上、管理者に大きな負担がかかるため、あまりお勧めできません。
翻訳支援ツールに実装された用語集機能を使い倒す
翻訳支援(CAT)ツールを導入している場合は、そのツールに付随している用語集管理ツールを使用するのが最善です。例えばSDL Trados StudioやmemoQ、Memsourceといった代表的なツールでは、すでに特別な用語管理ツールが用意されているため、CATツール上で構築した用語集を関係者が利用したり、更新したり、配布したりといった方法で一元管理されているケースがほとんどです。
翻訳支援ツールの用語管理機能ではTBXと呼ばれるXML形式の標準フォーマットを使用しているため、ダウンロードやExcelへの変換なども、かなり柔軟に実行できます。TBXはもともと多言語翻訳で使用する用語集構築を想定していますので、1対Nの用語集の作成にも対応できます。
また、翻訳支援ツールに実装されている用語集機能を使用することのもう一つのメリットは、「自動検証機能」です。訳語が用語集で定義されている場合に、それが訳文で正しく利用されているかを自動的に検証する機能です。もちろん、100%の精度で検証をしてくれるわけではありませんが、作業者の効率が格段にアップすることは間違いありません。
ここまでくると、翻訳支援ツールに実装されている用語集が一番良いように見えますが、一つだけデメリットがあります。それは、翻訳支援ツールを導入していない場合には、新たにライセンスを導入する費用が発生するということです。
用語集の作成を主たる目的として翻訳支援ツールを選ぶのは、あまりお勧めできません。現在の翻訳支援ツールはどのツールも日進月歩で進化しており、クラウドサービスも普及しています。月額課金するモデルへの切り替えも視野に入れている場合には、特定の翻訳支援ツールに利用が限定されてしまうのは避けたいところです。
翻訳会社に丸投げするのも一つのアイデア。ただし・・・
翻訳支援ツールを導入していない場合には、用語集の作成/管理を取引のある翻訳会社に任せてしまうのも一案です。
プロジェクトの規模や、内容に応じて適切な形式を提案してくれるでしょうし、翻訳支援ツールをすでに導入しているケースも多いため、自分たちの使用しているツールに合わせた用語集を作成し、チェック作業の精度を高めることもできるでしょう。
たとえば、あるプロジェクトで翻訳会社に翻訳をお願いした場合に、「プロジェクトで使用されている専門用語を用語集にしてほしい」と依頼してみるとよいでしょう。用語集の候補になる単語を代わりにピックアップしてくれるメリットがあります。社内のリソースが限定されている場合などには効果的です。
ただし、用語集を自社内の他部門でも利用したい場合や、更新や定義の作業に社内のメンバーが密接に関連している場合だと、翻訳会社に任せきりでは作業内容がブラックボックス化してしまうおそれもあります。また、プロジェクトベースで用語集の作成依頼をするため、用語集はリアルタイムに更新されなくなってしまい、他部門に常に最新版を利用してもらうことが難しくなったりするおそれがあります。
Webベースのコラボレーションプラットフォームの検討
リアルタイムに更新や管理ができ、用語を定義するユーザー、提案するユーザー、そして利用するユーザーが常に最新の用語集にアクセスできるようにするには、ブラウザベースのWebサービスがおすすめです。Webサービスなら、1対Nの用語集を構築することも、情報項目を増やしながらユーザーの視認性を高めることも、またはOSやアプリケーションに依存しない環境を構築することもできます。
たとえば、用語定義の最終確認は自社内の製品・サービス担当にしてもらうとします。用語と訳語の提案は、翻訳会社が行い、翻訳者がそのエントリを使用する場合には、それぞれのユーザーに対して、アカウントを発行し、用語のライフサイクルを管理する必要があります。このようなユーザー 管理ができるのも、Webサービスの強みです。
今回は当社で提案している2つのWebベース用語管理ツールを紹介します。
Kilgray QTerm
これは翻訳支援ツールのmemoQを開発・提供しているKilgray社のサービスです。
ユーザー間のコラボレーションを実現し、memoQとの連携も実現するツールです。
(Kilgray ヘルプサイトより)
TermLode
QtermはmemoQという翻訳支援ツールをともに使用することでより効率的に使用できますが、TermLodeは独立したサービスです。CSVやTSV、TBX形式などに対応しているため、特定の翻訳支援ツールに依存せず、利用することができます。
(*キャプチャはイメージです)
いずれのツールでも、お客様および作業者が共同して一緒に用語ライフサイクルを管理することができます。
こうしてツールを吟味することによって用語集を管理する環境を整えることができますが、用語ライフサイクルの管理には、さらに役割やステータス管理が重要になります。詳細については、別の記事で紹介いたします。
まとめ
次回は、用語集を中身に関するノウハウを共有します。