UIの翻訳はなぜ大変?
UIの翻訳はなぜ大変?
この記事を読まれている皆さまは、どのような端末で閲覧しているのでしょうか。PCやMac、またはスマートフォンで読んでいるかもしれません。しかし、どのような端末で閲覧されているとしても、「ブラウザー」や「ブックマーク」、または「開始」などのアイコンやボタンをクリックまたはタップされてきたのではないでしょうか。
この、端末を操作して情報をやりとりする要素は「ユーザーインターフェース (以下UI)」と呼ばれています。PCにせよスマートフォンにせよ、ユーザーが行いたい動作にはこのUIの操作がかかわってきます。そして、このUIにはもちろん、「翻訳」が発生しています。
時に「UI翻訳」とよばれるこのジャンルは、特化して存在しているわけではなく主に製品の翻訳の一部として依頼を受けることが多いですが、非常に特殊な一面も持っており、お客さまからはUI翻訳のノウハウについて詳細な問い合わせを受けることがあります。
この記事では、UI 翻訳の特徴について解説します。
UI翻訳はさまざまな形式で翻訳されます。多くの場合、Excel形式やテキストファイルで原文となるUIを提供されますが、中には独自のエディターを使用して翻訳するケースもあります。UI翻訳の最終目的は、翻訳したUIをシステムに取り込んで、日本語版として表示させることにあるので、元となるシステムの開発環境に依存している場合が大多数です。
しかし、ほとんどのケースで問題となるのは、UIを製品のソースから抽出してリスト化しているため、ほぼ文脈が考慮されずに並んでいるだけ、という非常に翻訳しにくい性質があることです。
そのため、翻訳者からの問い合わせも、
などの、文脈やUIの表示個所に関するものが多くなる傾向があります。この問題を解消するために文脈に関する質問を翻訳中または納品時に依頼主に行う場合があります。
また、同じ画面上のUIでまとまりを作るか、属性情報やタグ付けである程度の文脈を判断できる情報を付加して原文ファイルを作成いただくこともあります。
とある朝、いつも業務で使用しているソフトウエアにバージョンアップの通知が表示される。アップデート後、業務を開始するがなんだか使い勝手が悪い。そして、いつも使っていたアイコンやメニューの表記が変わっていることに気づき、さらには業務に重要な機能にたどり着けず、最終的にサポートデスクに連絡した・・・。 |
これは、間違った方針でUI翻訳を行ってしまった結果の一例です。UI翻訳の特殊性を表す一例に、「過去のUI翻訳を勝手に直してはいけない」というケースがあります。ユーザーはあるソフトウエアに習熟する段階で、UIやボタンの色、位置、タイミング、大きさなどの「現在のUIの設定」に慣れていきます。逆にそういった要素が勝手に変更されると、慣れた操作を遮断する結果を招く恐れがあります。歴史のあるソフトウエアや問題の発生していない機能では、たとえ翻訳が間違っていても修正すべきではないケースもあるため、既存のUIの作業方針について依頼者との綿密なコミュニケーションが必要となります。
UI翻訳をご依頼いただくと、あとからその製品に関するヘルプ文書のご依頼もいただくことが少なくありません。大変ありがたい話なのですが、その反面、あるリスクが潜んでいます。それはこのヘルプ文書の中にUIが含まれていることがほとんど、という事実です。先にUI翻訳を実施し、完全にUIが決定したあとではあれば何ら問題はないのですが、以下のような事態に陥るとリスクが表面化します。
こうなると修正の無限ループです。UIとヘルプ文書を同時期に翻訳する場合は、修正の方法やタイミング、確定の時期など、事前にすり合わせておく必要があります。
UIはユーザーが直接触れるものであり、それゆえにソフトウエアやアプリの使い勝手に直結しています。句点や送り仮名、長音の有無が変わっただけでも違和感を抱くユーザーもいます。また、近年モバイルアプリの翻訳も増加しており、文字通り指で直接操作するため、UI翻訳のよしあしが使用感や操作感に直結しているケースも少なくありません。UI、およびそのUIの翻訳はまさしく製品そのものの翻訳だということがお分かりいただけたのではないでしょうか。