翻訳者だけじゃない?

発注から納品まで翻訳に関わる人々

 

「翻訳」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。映画の字幕、小説、インターネット上のニュースなど、世の中に翻訳は溢れていますが、実際にどんな人が翻訳に関わっているかは、なかなか知られていないと思います。人によっては、紙の辞書を見ながら、机に孤独に向かう翻訳者が、毎日徹夜をして手書きで翻訳を…など明治の文豪のような姿を思い浮かべるかもしれません。

今回ご紹介するのは、お客様より発注があってから、翻訳会社で一般的に翻訳案件がどのように動いていくのか、その概要です。「翻訳を発注したけど、翻訳会社はどんな工程を踏んで訳文を作り上げてるの?」そんな疑問が解消できれば嬉しいです。

概要:翻訳案件の大まかな流れ

工程は、大きく6つに分けられます。そして各工程に主に携わる人がいます。カッコ内が役割名です。

  1. スケジュールの設定と作業者の選定(プロジェクトマネージャー、以後PM)
  2. 翻訳(翻訳者)
  3. チェック(チェッカー)
  4. 最終確認(品質管理担当者)
  5. DTP(DTP担当者)
  6. 納品

上記工程の流れにそって解説します。

記事は大きな流れを掴むためのものなので、各役割の人の詳細な作業や使用しているツールは割愛します。

スケジュールを設定し、案件に適した作業者を選ぶ: PM

お客様より翻訳案件の依頼を受けてから、翻訳会社の制作チームで初めて案件に触れるのはPMです。PMとは翻訳の案件の進行を管理する役割です。まず、お客様よりいただいたファイル・参照資料を確認し、案件の詳細情報(読み手はだれか、納期、納品のファイル形式等)、その他情報を、営業から引き継ぎます。この情報を正確に把握し、この後の工程の方々に伝えるのが、PMの重要な役割です。

仕様の確認後、実際に翻訳・チェック作業をする人を決めます。案件の性質に合わせ、マーケット向けの柔らかい文章が得意な人、専門分野の知識がある人、経歴として特定業界の勤務経験があるかなどに考慮して作業担当者を選びます。また、目星の作業者がそもそもお願いしたい時期に予定が空いているか把握することも重要です。続く工程の翻訳者・チェッカーの方に案件対応の受諾をもらえれば、必要なファイル・情報を各担当者に渡し、案件は次のステージに進みます。

翻訳の要: 翻訳工程(翻訳者)

その名の通り、翻訳を行います。

ただし、ただ翻訳をするだけではありません。翻訳を開始する前に、PMから連絡があった仕様を確認します。お客様によってはスタイルガイドが提供されることがあります。スタイルガイドとは、出版物における表記の統一ルールを明示したものです。例えば、以下のようなものがあります。

  1. 本文を、敬体(ですます調)あるいは常体(である調)のどちらかに統一する。
  2. 句読点は「、」と「。」を使う。
  3. 常用漢字表にある漢字を主に使用する。…etc

(引用元:https://www.jtf.jp/jp/style_guide/pdf/jtf_style_guide_rule12.pdf) 

仕様・スタイルガイドはお客様からの要望のため、これらルールに則って翻訳をすることが大前提です。ただ間違いのない翻訳をするだけでなく、仕様に沿ったルールを守りながら、細心の注意を払って翻訳をします。翻訳案件におけるスタイルの重要性については、こちらの記事でも解説していますので、気になる方はぜひご覧ください。

翻訳のミスを拾い、より高い品質に: チェック工程(チェッカー)

翻訳者が作成した翻訳物をチェックします。簡単にいえばダブルチェックです。

例として、以下のような点を注意します。

  • 訳抜け:翻訳対象にもかかわらず、訳されていない、あるいは欠落している場合や、英語文法上の解釈の誤りがないか
  • 誤訳:原文の構文構造が正しく理解されていない、単語の意味が間違っている
  • 訳文の文法:誤字、脱字、誤記(英数字の誤り、句読点の誤りなど)

その他にも、お客様からもらったスタイルガイドに違反しないか、用語の不統一がないか、また日本語として読みにくい箇所はないかなど、翻訳者の翻訳をチェックします。

品質の最後の関所: 最終確認工程(品質管理担当)

チェックが終わると、品質管理担当者の手に翻訳物が渡ります。品質管理担当者は、翻訳者とチェッカーを経て、基準に達する品質の訳文が納品されているか、お客様の仕様に準拠した訳文になっているかを確認します。また、翻訳者・チェッカーから申し送りが来る場合があります。申し送りとは次の工程の人に向けた連絡事項で、例えば「この製品名はインターネットで調べたところ翻訳されていない。英語のままでいいか」「2つの訳し方で迷った。確認してもらえないか」等です。お客様に伝える必要性の可否で、申し送りの選定を行います。また、誤訳等の見落としがないか、意味が通らない文がないかなど、最終的な確認を行います。案件によっては大量の文章を見るため、修正するべき点が多いと本当に大変です。初動のPMの段階で「適切な作業者にアサインができているか」という事項がここで生きてきますね。

翻訳物のイメージを決める: DTP工程(DTP担当者)

最終確認が終わると、訳文が入ったファイルを作成し、今度はDTPです。

DTPの代表的な作業としては、翻訳した文章を含むファイルのレイアウトを整えることです。例えばカタログやパンフレットなどデザインがあるものは、翻訳したファイルを対象に再度レイアウト調整をする必要があります。翻訳後、原文の元の分量と変わってしまった訳文だと、文字が画像に被ってしまったり、レイアウトが崩れてしまうからです。基本のレイアウトは、原文のファイルのファイルに準拠しますが、無理やり原文に合わせると逆に読みづらくなったりする場合あります。状況によってはレイアウトを多少変更して読みやすさ・見やすさを重視して調整を行います。レイアウトは翻訳の内容より先に目に入ってくるものなので、この部分を一番重視します

無事、納品!

上のDTP工程を終えて、やっと納品です。

一つの案件でも、翻訳はこれだけの人の目を通り、精査され、ようやくお客様の元に提供されます。もちろん案件によって一人が複数の役割を兼任したりして、関わる人数が減ったりすることがありますが、一人で孤独な翻訳を行うというよりも、チーム内の情報伝達・協力が重視されているのがお分かりいただけたでしょうか。ただ、そもそもなぜこんなに多くの人が関わるのでしょうか。それはひとえに翻訳の「質」を保証するためです。世の中に出る活字として恥ずかしくないよう、完成した翻訳には、翻訳の「質」を保証するために、多くのエネルギーが注がれています。今回の記事を通して、翻訳の舞台裏にいる人々の思いが皆様に伝われば幸いです。


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