CAT虎の巻:そもそもCATってなに?
CAT虎の巻:そもそもCATってなに?
ITが普及し急速な情報化が進む現代社会。翻訳業界もその波に乗り、業界全体でITの普及が加速しました。紙原稿を翻訳し、訳文をワープロに打ち込み、印刷された訳文をチェックして赤鉛筆で修正を入れる・・・このような翻訳プロセスも、いまや昔の話。IT技術の導入により、翻訳業界でも効率化が飛躍的に進みました。
その効率化に大きく貢献しているものの一つが、翻訳支援ツール(通称CATツール)です。さて、このCATツール、翻訳者や翻訳会社にとって、どのような形で効率化をもたらしたのでしょうか?
CATは「Computer Assisted Translation」(コンピューター支援翻訳)の略称で、文字通りコンピューターに支援された翻訳を指し示します。「CATツール」は、翻訳者がより効率的に、高品質な翻訳を生み出すことができるように設計されたソフトウェアの総称で、CATツールの中にも様々な企業が提供している多くのソフトウェアが存在します。
このソフトウェアを使用することによって得られる大きなメリットは、過去に蓄積された「翻訳メモリ」(TM)を参照できることです。過去のバイリンガルデータ(ある言語とある言語の対訳データ)があれば、それを新しい翻訳作業時に流用して、参照できます。また過去の訳文や用語を参照したりそのまま流用したりできるため、翻訳の工数が格段に減り、用語やスタイルの統一性も図れます。この機能が翻訳の効率性向上に大きく寄与しています。
もちろん、上記のTMを参照できること以外に、CATツールには様々な機能が備わっています。どのような嬉しい点をもたらしてくれるのか、翻訳者目線でまとめてみました。
①翻訳作業を行うエディタが見やすい
上記したとおり、CATツールは翻訳の作業効率性の向上を追及したツールです。そのため、実際に翻訳作業を行うエディタが翻訳者にとって非常に見やすい仕様になっているのです。
こちらはCATツールの一つ、SDL Tradosの翻訳エディタ画面です。原文の日本語と英語が1文ごとに対訳の形式で表示されます。訳抜けの心配もなく、非常に見やすいです。
②「用語集」を簡単に参照できる
翻訳作業時に準拠しなくてはいけない「用語集」が支給される場合があります。CATツールを使用すると、原文にその該当用語が出てきた場合に太字で強調され、訳語が真横に表示されたり、強調の赤線が引かれたりします。ツールによってその表示方法は異なりますが、いずれにしろ、わざわざExcelにまとめられた用語集を開いて検索して・・・という手間が省かれます。「用語集を参照しそびれる」リスクは格段に抑えられますため、用語の統一性を計れます。
③過去の翻訳との「差分」が分かりやすい
過去の翻訳メモリを流用できると上記しましたが、過去の翻訳を参照するだけだったら、別に昔の翻訳をword形式で渡してもいいのでは・・・と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、CATツールを使うと、過去の原文と新しい原文を比較して、どの部分を新しく翻訳すべきか、どの部分はそのまま流用できるか、が一目でわかるのです。
こちらはTradosのエディタ画面です。メモリに登録された原文は「IT分野の翻訳に参入」で、新しい原文は「IT分野の通訳に参入」です。ここでは差分の「通訳」が強調表示されています。つまり、過去のメモリに登録された文の「翻訳」を「通訳」に置き換えるだけで翻訳が完了するのです。
その他にも、ファイルごとの作業進捗が確認できたり、CATツールに独自の校閲機能が備わっていたり、翻訳者にとってはかなり使いやすい仕様になっています。
翻訳者に嬉しい機能がたくさん備わったCATツールですが、もちろん、翻訳会社にも効率化をもたらしてくれる機能が多く備わっています。
①文字カウントが容易にできる。
お客様から翻訳対象のドキュメントを受け取った後、そのファイルをCATツールに取り込むと、そのファイルに含まれている文字数/ワード数を一瞬で知ることができます。たとえ作業対象のファイルが膨大な数あったとしても、CATツールに取り込めばファイルを一つひとつ開くことなく、即座にカウントが行え、またその文字数をリスト化してエクスポートすることもできます。もちろん、ほとんどのCATツールがあらゆるファイル形式に対応していますのでご心配なく。文字カウントの詳細については、こちらの記事をご覧下さい。
②あらゆる原文をとりこめ、元のレイアウトのまま訳文にできる
翻訳会社がお客様から預かる原文のファイル形式はword, excel, InDesign, power point、htmlなどなど・・・多岐にわたります。翻訳者さんによっては「InDesign持っていないので対応できません」という方もいらっしゃるかもしれません。そうすると翻訳をお願いできる人が少なくなってしまいます。しかし、CATツールを所持していればそんな心配もご無用です。あらゆる原文をCATツールに取り込めますので、CATツールさえ所有していれば、CATツールで開けるファイル形式で翻訳者さんに作業の依頼ができます。また、完成した訳文は、原文の元のレイアウトに置き換える形で生成できますので、レイアウトの手間も格段に省かれます。元のレイアウトのまま訳文にできる話の詳細については、こちらの記事をご覧下さい。
③プロジェクトマネジメントが格段に楽になる
翻訳対象のファイルが多岐にわたる場合、また多くの翻訳案件が併行して動いている場合。そんな場合でも、CATツールを使用すると全てのプロジェクトの進捗やステータスを簡単に確認できます。また、上記したとおり、翻訳者がメモリや用語集を簡単に参照できるため、品質管理も効率的に行うことができます。
さて、翻訳者にとっても翻訳会社にとっても嬉しいCATツール、一体どのようなものがあるのでしょう?
業界最大手のSDL社が展開するローカルベースのCATツールです。CATツールを先駆的に開発し続け、その歴史も長いです。操作性にも優れていますので、Tradosを好んで使用する翻訳会社、翻訳者は非常に多いです。お値段がかなり高額なので、個人翻訳者にとっては初期投資に費用がかかるのがネックでしょうか。
上記のTradosと比較すると新しいCATツールですが、Tradosと比べると安価な価格、そしてTradosとは異なるクラウドベースの翻訳管理を強みにその勢いを伸ばしています。作業進捗や翻訳メモリをリアルタイムで共有できるので、スピード感の求められるプロジェクトにオススメです。
③XTM
こちらも新しい翻訳支援ツールです。memoQと同じクラウド型ですが、さらにはアプリケーションをインストールせずにブラウザでアクセスしてプロジェクトを管理する形式をとっています。翻訳会社が翻訳者のライセンスをXTMより購入し、翻訳者に付与する形になりますので、memoQやTradosを所有しない翻訳者にとってはありがたいCATツールですね。
その他にもmemosource、omegaTなど、多くのCATツールがありますので、気になる方はぜひ調べてみてください。
結局のところ、CATツールはマストなものなのでしょうか?結論から言いますと、翻訳会社などの翻訳を管理する側からすると、CATツールはマストであるといえるでしょう。それだけ、CATツールのもたらした業務効率性向上は大きいのです。
実際、翻訳会社がCATツールを導入し、翻訳者にもCATツールを使用することを求める場合が多く、CATツール使用を条件とした案件も増えていますので、翻訳者もその流れに乗ってCATツールを導入しているケースが多いようです。
しかし、医療分野や特許翻訳のような、翻訳者に専門性がさらに求められる分野では、翻訳者数が限られており、CATツールを所持していない翻訳者にも案件を依頼するケースが多いですので、CATツールがあまり普及していないのが現状です。
今回ご紹介した以外にも、CATツールには様々な種類があり、それぞれに様々な便利な機能が備わっています。今後も当サイトで紹介をしていきますが、もしも「こんな機能があるか知りたい!」などリクエストがありましたら、お気軽に下記フォームからお知らせ下さい!